始めてイギリスの地に降り立った時、ここは本当に同じ時代なのかと、莉子は目が回るほどの衝撃を受けた。

道を走る車の多さや目まぐるしく変わる信号。

建ち並ぶ高い建物に、ひしめき合う人々の群れ、女性も男性も背が高く、日本では頭一つ分飛び出す司の目立つ背丈も、ここでは程よく隠してくれた。

莉子や亜子なんてまるで子供に戻ったみたいに、自分が小さくなってしまったかのような錯覚を覚えた。

あの船旅での一件で、何故か司に懐いてしまったブライアンが、自分の邸宅に司と兄妹達を招いてくれた。

今、馬車に乗りブライアンの邸宅に向かっているところだ。

先程まで、車窓を楽しんでいた亜子も兄の正利にもたれかかって、こくんこくんと船を漕いでいる。

莉子は車窓を観ながら、沈みゆく綺麗な夕暮れをぼんやりと眺めていた。

『ところで、君の邸宅はロンドンからどのくらい離れている?俺達は明日、ロンドンの街中にある貿易商と会うことになっているんだが。』

そんな兄妹達と向かいあった席に、司とブライアンは座り、静かな声で英語で話しを交わしていた。

『20分くらいです。車を貸しますし、運転手も付けますから大丈夫ですよ。イギリスに居る間ずっと滞在してくれたらいいですよ。』

『そこまでは申し訳ない。2、3日邪魔したら、以前世話になったホテルに滞在するから大丈夫だ。』

あっさり司がそう言うから、ブライアンは悲しい顔になる。

『同じ船に乗って旅をした仲じゃないですか。そんな水臭い。我が家は僕だけの家ですし、なんの気兼ねもいりません。ずっといて下さいよ。』

なかなか食い下がらないブライアンに軽くため息を吐く。

『亜子も正利君も君がいたら寛げない。それに長旅で疲れが出ている頃だから、少し家族だけでのんびりさせてやりたい。』
司の言い分はごもっともだ。

大事な大事な莉子だって、退院して直ぐに船に乗せてしまったから、誰よりも疲れているだろうと心配になる。