「お前にとやかく言われる筋合いはない!どうせ、リディアの知人程度で終わる間柄なんだから黙っていろ!」

「いや、それは分かんねぇーだろ!?もしかしたら、俺がリディアの夫に……」

 そこまで言って急に恥ずかしくなり、俺は声のトーンを落とす。

「な、なるかもしれねぇーだろ……?未来のことは誰にも分からない訳だし……」

 熱を持つ頬を隠すように手を当て、俺はそろりと視線を逸らした。
リディアが今どういう顔をしているのか、確認する勇気が出なくて……まともに目も合わせられない。

 いや、でもやっぱり気になる……。
一瞬だけなら、気づかないかな?

 激しく脈打つ心臓を宥めつつ、俺はチラリとリディアの方に目を向ける。
────が、彼女の姿はどこにもなかった。
『えっ?消えた?』と混乱する俺を他所に、ニクスが詰め寄ってくる。

「聖職者が何言ってやがる!」

「えっ?あっ、ウチの神殿は基本結婚の自由を認められているんだよ」

 困惑のあまりよく分からない回答を口にする俺に対し、ニクスは目を吊り上げる。

「知らん!とにかく、お前の全ては神に捧げろ!」

 言外に『結婚なんてするな!』と主張し、ニクスはピンッと立てた人差し指を俺の胸元に突きつけた。
────と、ここでグレンジャー公爵を引き連れたリディアが戻ってくる。
どうやら、この騒ぎを収めるために呼んできたらしい。
『助かった』と安堵したの束の間────俺はニクスと共に、公爵から大説教を食らった。