愛馬、シャイロのいななきで、テスは物思いから呼び戻された。

「ごめんなさいね、ぼうっとして。そろそろ戻りましょうか」
テスは馬の首すじをかるく叩いて、やさしく語りかけた。

厩舎に戻ると、ちょうど厩舎係のロジャーが馬たちに夜のまぐさを準備しているところだった。

お帰りなさいませお嬢さま、と陽に焼けた顔に笑みが広がる。

「ただいま、メイの具合はどうかしら」
ひらりとシャイロの背から降りながら、お腹に仔がいる牝馬のことを聞いてみる。

順調ですよ、とロジャーが請け合う。
「馬は多く見てきましたけど、あいつほど優秀な牝馬もそういない。均整のとれた馬体で毛色のいい仔を産んでくれるので、いつもいい値で売れますから」

「メイのおかげでこの厩舎も維持できるってわけね」
努めて明るく口にしたものの、そこにある苦い現実を意識せずにはいられない。

メイが産む仔をロジャーが仕込んで高値で売ることで、厩舎はようよう保っているのだ。
新しい馬を増やすような余裕は無い。
メイが仔を産めない馬齢になったら…