「度々すみません…」
「大丈夫だよ。…照れ屋だから、会いに行かない方が言われていたんだが、考えてみればそれもあの二人の戦略だったんだね。
君の意思をないがしろにして本当に申し訳なかった」
頭まで下げられ、私は恐縮しきりだった。
「いえっ、それはあなたが謝ることではないので」
「僕の名前は…、いや、知らない方が良いか。
僕たちの間には何もなかったんだから。婚約なんてしていなかったってことで終わらせよう」
相手のご両親は最後まで納得いかない様子だったが、何とか宥めて帰ってもらった。
二人きりになった部屋で、ようやく人心地ついたと息を吐く。
「…風花、ごめん」
すると、唐突に先輩が謝罪の言葉を紡ぐ。
「どうして謝るんですか?」
「あの時、風花に別れの言葉を言わせたのは俺でもあるから。
俺に力がなかったから、風花にあんな苦しい選択をさせた」



