「鷹也、お前って本当にむかつく。カッコつけやがって。ああ、ちきしょう!芙蓉……俺はお前が本当に好きなんだよ。結婚したら幸せにする」

「繁、ごめんなさい。あなたのお陰で私このホテルで一人前になれた。感謝してる。でも、こんな結婚でお互い幸せになれると思えない」

 芙蓉は貝原オーナーに深々と頭を下げた。オーナーは頭を振りながら答えた。

「これは負けだな。でも少しは勝ったか?額面上は、スワンを救った以上の価値を手にできそうだ。四年間君がここで働いて、ここ半年はコンシェルジュとしてうちの顔になりつつあった。実はね、君を見るたび、亡くなられた君の母上の面影がちらついて私も執着があった」

「おじさま……大変お世話になりました」

 鷹也は芙蓉の手を引いて、その場を去った。