「なに考えてんの…」

ゆうれいの呼吸が荒く、速くなる。

私に触れる指先が熱を帯びていく。

「ゆめ…」って繰り返す声が、やわらかくて、
切なくて、心で何度もごめんなさいを繰り返す。

「もっと…お願い…頭カラッポにさせてっ…」

「ちゃんと集中して?俺のことしか考えちゃダメだよ?ゆめ…ゆめ、好きだよ…好き」

ガチャンって玄関のドアが開く音がした。

「おかえりなさーい」ってお母さんの声。
お父さんが帰ってきたんだ。

「こっち…来ちゃうかも」

「じゃあほら、もっと集中しなきゃ…タイムオーバーだから…早く、ね?」

バレたら殺されるなって、全然焦ってない顔で八重歯を覗かせたゆうれいは、
愛おしそうに私にキスをした。

これが本当の恋愛なら、迷わずゆうれいに全部を委ねて幸せなことだけを想っていられるのに。

こんなにも甘い溺愛をくれるひとを、なんで私は好きにならないんだろう。

これで終わり。今度こそ、絶対に。
何度もそう誓うのに、ゆうれいに触れられると、その熱を思い出してしまう。

麻薬みたいに、その瞬間だけは忘れたいことを忘れることができる。

本当は甘くなんかない。
苦いだけの関係だって知りながらも。

「ごめん…ゆうれい、ごめんなさい…」

「好きって言って…」

「ちが…っ」

「お願い、今だけだから…ゆめ…好き」

好きなんて、言えなかった。

ゆうれいを、この関係を唯一救える言葉。
もしかしたら後戻りできるかもしれない、たった一つの方法。

それなのに。

ゆうれいの熱い行為にだけ身を委ねて、
どこまでも堕ちた。