毒で苦い恋に、甘いフリをした。

「結芽、なに見てんの」

バレーの授業。
私のチームは試合を終えて休憩時間だったから、
運動場でサッカーをしている男子達を見ていた。

私だけじゃなくてほとんどの人が見ていたし、
バレーの試合中の女子達でさえ「ずるい!」って文句を言っている。

かっちゃんのチームとゆうれいのチームに分かれていて、今は3対3。

あと五分でタイムリミットみたいだった。

前髪をピンで留めたかっちゃん。
ブラウンの猫っ毛がやわらかそうに風になびいている。

美術とか音楽の授業中のクラスの人達まで、窓から顔を出して試合を見ている。

かっちゃんとゆうれいの間をボールが行き来するたびに歓声が上がった。

「ニカ、どっちが勝つと思う?」

「結芽はどっちに勝って欲しいの?」

「それは…まぁ…」

「でも怜のこと応援してあげなきゃ悲しむんじゃない?」

「なんで?かっちゃんを応援してること知ってるのに?」

「…あんたってほんと、鈍感っていうか残酷って言うか…」

ニカが肩で大きく息をついた。

ゆうれいのことも応援していないわけじゃない。
でもやっぱりどうしたって私の目はかっちゃんばっかりを追ってしまう。

「わ、すごい盛り上がってるね」

ニカの後ろからこころちゃんが顔を出して、ハーフアップの後れ毛を指で整えながら、私にニコッて微笑んだ。

ゆっくりと、その可愛い笑顔に視線を向けたとき。

運動場から顔を逸らした瞬間にホイッスルの音が鳴り響いて、見学していた体育館の女子達からも、
校舎の窓から見ていた生徒からも黄色い歓声が上がった。

「風くん、すごい」

私が見ていないところでかっちゃんがシュートを決めた。

私はこころちゃんを見つめていて、
こころちゃんはかっちゃんのシュートを見届けた。

ニカが眉をちょっと下げて、「戻ろ」って体育館の中央を促した。

バレーの試合も、終わっていた。

のろのろと視線を戻した運動場の真ん中で、
かっちゃんはチームメイト達に囲まれていて、
ゆうれいは拗ねてるみたいに手足を伸ばして仰向けになって空を仰いでいる。

ゆっくりと体を起き上がらせたゆうれいが、ゆるくこっちに手を振った。

周りにたくさん人がいたから、その振られた手が誰に対するものか分からなくて、
体育館内でまた小さく歓声が上がった。