毒で苦い恋に、甘いフリをした。

「そんなことないよ。普通に喋ったりしてるじゃん」

「俺に全部忘れさせて欲しいくらい、求めてないでしょ」

「そんなこと無いほうがゆうれいだっていいでしょ?精神衛生的にもさ…」

「じゃ、そーゆうのもうやめよ?」

「え?」

「そーゆうのやめてさ、ちゃんと付き合わない?」

「ゆうれい?」

まだ背中にしっとりと汗をかく季節だった。
影に入ればちょっとは涼しいけれど、陽の当たる場所では暑いし、放課後の西陽でゆうれいを見たらすごく眩しい。

「ヤなんだよね。誰かとお似合いだとか、誰かと一緒にいて楽しそうだったとか、ゆめに言われんの」

「ごめん…」

「誰かととかじゃなくて、自分が彼女だから俺に近づかないでーくらいの気持ちでいて欲しいし、ゆめに触れたりすんのにもいちいち理由づけとかしたくない。ゆめとそーゆうことすんの、もうダメなことだって思いたくない」

通学路だから当然何人もの生徒達に追い抜かれていくのに、
ゆうれいにはその人達のことが全然見えていないみたいだった。

ゆうれいが眩しくて、腕を引いて道の端の影に入った。
顔がよく見えるようになった。

いつものチャラチャラした表情はどこにもなくて、
大きい瞳でジッと私を見ている。

「ごめん。付き合うとかすぐには分かんない。こういうことしてきたのにそれはできて付き合うのがムリとか意味分かんないよね…。でもこんな気持ちで付き合っても、もっとゆうれいを傷つける気がする」

「じゃあこんな中途半端な気持ちのまま我慢し続けるしかないんだ?」

「ちゃんと考える時間が欲しい。かっちゃんへの今の気持ちをちゃんと整理して、ゆうれいに対して酷い扱いしてきたことも…ちゃんと考えてから返事させて」

「期待してもいいってこと?」

「それは…分かんないけどゆうれいのこと大事なことには変わりないから」

「じゃあ期待してよっと」

「だーかーらー」

「今キスしたいんだけどダメ?」

「ダメに決まってんでしょ!そういうのやめようって言ってるんじゃん!」

そう言ったのに、
人が見てるのにゆうれいは私にキスをした。

「この瞬間は女の子の目で俺のこと見んの、かわいー」

もうここまで来たら普通に付き合うのが自然な流れだと思う。

私の中にまだ引っかかっているのは、
結局私の好きだって声がかっちゃんには届いていないこと。

それからやっぱりこころちゃんのこと。

教室で見たこころちゃんが本性ならこのまま丸く収まるわけがない。

たぶん、私にもゆうれいにも関わることだから。
このままにはしておけないよね…。