毒で苦い恋に、甘いフリをした。

「柳くん…サッカー終わったの?」

「んー。風ももうすぐ戻ってくるよ。待ち疲れたでしょ?」

「や…全然、全然。喋ってたし…」

ゆうれいと私を見ながら、こころちゃんの目は完全に泳いでいる。

「えーっと…じゃあ私はそろそろ帰ろっかなー…」

こころちゃんの友達が気まずさ全開って感じで教室を出ていった。
私のほうは見向きもしなかった。

自分の席までつかつかと歩いていく私に、こころちゃんが一瞬ビクッと体を震わせた。

「うぇー。汗でベットベト」

「はい」

机の横に掛けてあった体操服入れのトートバッグを取って、鞄から汗拭きシートを取り出してゆうれいにあげた。

「わーお!ゆめちゃんさっすが女子!」

「バカにしてんの?」

「褒めてるんじゃん。マジで助かった、マジ神!」

「はいはい。じゃーね」

「えー、一緒に帰ろうぜー」

こころちゃんを見た。
俯いたままなんにも言わない。

「帰るなら早くね。急いでるから」

「ん。もう行ける行ける」

「…こころちゃんは?かっちゃんと帰るんだよね?」

「えっ…あぁ…うん」

「そっか。じゃーね」

こころちゃんは眉間に皺を寄せていた。
私が話を聞いていたことにもたぶん気づいている。

聞かれた気まずさと、聞いた上で私がゆうれいを連れていくことへの嫌悪が滲み出ていた。

冷静を装ったけれどもちろん私だって混乱している。
こころちゃんが怖い…。