「そんなつもりないから…」

「ゆめはずるい。そんな目するくせになんで俺じゃダメなんだよ」

巾着から飛び出していたりんごあめの竹串をゆうれいがツンツンって突っついた。

「りんごあめ」

「結局食べてないじゃん」

「うん」

巾着から取り出したりんごあめの袋には、
ちょっとだけ溶けたあめの赤色が付着している。

生ぬるい夏の夜に、思ったよりちゃんと原型をとどめている。

袋を留めている銀のケーブルタイを外して、袋の上をつまんだ。

「何やってんの」

「ここからが真剣勝負」

「なにが」

「りんごあめは、空気が抜けた瞬間に袋がくっついちゃうから一瞬の勝負なの」

「がんばれー」

ゆうれいのゆるい声援を受けて、一気に袋からあめを引き抜いた。

「てんさーい!」

「すごいじゃん」

ペロって舐めたら、大好きなべっこうあめの味。
溶け始めているからか、あめがだいぶうすくなっている。

一ヶ所を齧ってみたら、うすいあめがパリって剥がれた。

ふいにゆうれいがキスをしてきて、
くちびるに挟んだままだったあめを持っていかれた。

「あま」

「ん。ゆうれい」

「なに」

「血、出ちゃってる」

あめがうすくてくちびるが切れちゃったみたい。
うっすらと滲む血を親指の腹で拭ってあげた。

その手を取って、ゆうれいは深いキスをした。

血の味はしなかった。
甘い、べっこうあめの味だけがした。

「こうなってもまだ俺のこと男として意識してないの、ムカつく」