大量に購入したお菓子をパントリーに片付け終わって、彼の仕事の邪魔にならないように自室へと戻ろうとした私は、なぜか彼の手によって阻まれた。

きつく掴まれた手首にジンとした熱を覚え、背中に軽い衝撃を感じ、少し緩んだネクタイの結び目が、目と鼻の先に。

何事かとゆっくりと顔を持ち上げると、射貫かれるように熱い視線が注がれて。
吸い込まれるように綺麗すぎる美顔に見惚れていた、次の瞬間、唇に柔らかい感触がした。

これは……?
もしかして、私、……士門さんとキスをしてる??

形だけの夫婦なのに。
好かれているわけでも、愛されているわけでもないのに。
雰囲気に呑まれて、『キス』をするような人なの?

挙式の時でさえ、唇にキスして貰えなかったのに。
今日は沢山会話して、ちょっと距離が近づいたから?

キスくらい、してもいいと思われたのだろうか?

永遠の誓いをした人だから、心から愛されたい。
そんな望みですら、この半年で嫌というほど打ち砕かれたのに。

形だけの妻だから『あなたの心が欲しい』だなんて、淡い期待を抱くことさえ許されない。

今のキスだって、場の空気に流されただけ。
きっと、あの人(木下さん)と間違えてしたに違いない。

嬉しいはずのファーストキスなのに、苦しいほどに胸が締め付けられる。

「あ、ごめんっ……つい」

気付いた時には、涙が溢れていた。

酔った過ちなら、笑って流せるけれど。
今日は一滴も飲んでいないのに。