「お父様から、何か言われた?」
「……そろそろ、良い知らせはないのか?と」

はぁ、またその話。
最近よく電話をかけて来て、催促するようにそればかり。

幼い頃から『躾』と称して、色々な習い事をさせられた。
全ては、父が思い描く将来像に見合う婿へと嫁がせるために。

士門さんの会社は設立して間もないが、既に海外でも人気らしい。
ゲームはしないから分からないが、『ALK』という名はここ最近よく耳にする。


結婚して半年ほどが過ぎた。
だから、そろそろ妊娠してもいい頃合いだろう、と。

だけど、私と士門さんの間には、世間一般的な新婚夫婦のような蜜月はなかった。

たまに顔を合わせる程度。
お互いに干渉しないルールだから、ルームシェアの域の人。

手を繋ぐこともハグすることも、全くない。
それどころか、家に寄り付ない夫に会う方法を知りたいほどだ。

妻なら、夫に『今日は何時に帰って来るの?』『今日の晩御飯は何が食べたい?』『週末、どこかに連れてって』
そんな甘い囁きを日々重ね、愛を育むのだろうが。
『次はいつ帰って来ますか?』このフレーズでさえ、口にすることができない。

翼を折られた鳥のように。
棘でできた檻から逃げれたと思ったのに、別の檻に移っただけ。

毎日同じ景色を眺め、黙々と仕事をこなす。

それでも、父親の監視がなくなっただけ天国のようなものだ。

「お互いに今は仕事が忙しいだとか、適当なことを言ってかわしておいてちょーだい」
「分かりました」

夫に抱かれたことがないのだから、妊娠のしようがない。
そもそも、夫婦同伴のパーティーなどに出席する以外に彼が私に触れることはない。

ううん、違う。
私と彼との間に、形以外の夫婦の時間は含まれていないのだから。