(士門視点)

「おはようございます。朝食のご用意は出来ております」
「……ありがとうございます」

挙式翌日。
アラームで目覚め、リビングへと行くと、キッチンから執事の二谷が声をかけて来た。

朝食の準備が既に出来ている……って?
今何時だと思ってんだよ。
朝の六時半だよ。

デスクワークが主だから健康管理のために、毎朝ジョギングをするためにアラームをかけているが、こんな時間から新婚夫婦の家に第三者がいる。

いや、待て。
もしかして、この男もここに住んでいるのか?
そうとしか思えない。

無駄に部屋数はあるし、家の隅々まで把握している。
何よりこの住居自体、篁家からのものだ。

一応、書類上では名義人は『淪 士門』になっているが、篁家の大事な娘が新生活を送るための住居。
だから、俺はいわば同居人。


昨夜だって、あの後。
結局彼女と話すことなく、俺は自室の浴室でシャワーを済ませ、不貞腐れるようにそのまま就寝した。

披露宴でお酒を飲んでいたこともあったし、仕事による疲労も蓄積していて。
聞きたいことや確認すべきことが山のようにあったが、全てに蓋をした。

「彼女はまだ休んでいますか?」
「はい、ぐっすりとお休みになられています」
「……そうですか」

夫の俺が知らぬ妻の状況を当然のように把握している執事。

何年も前から彼女に仕えていると聞いているから、彼女のことなら何でも知っているのだろう。
寝顔も、パジャマ姿も。

「運動して来ます」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」

いちいち報告しなくてもいいのかもしれない。
けれど、目覚めた彼女が俺のことを気に留めるかもしれないと思ったから。

釈然としないままリビングを後にした。