雫に濡れて輝く葉をかすめる太陽の光。
青く澄んだ紫陽花が庭に咲きほこり、梅雨の楽しみを味わわせてくれる、そんなある日。

「今週の土曜日、お前の見合いが決まったから」
「……お見合い、ですか」
「何か、不服でもあるのか?」
「……いえ、別に」

幼い頃に母を亡くし、大手出版会社(七夕社)の社長令嬢として育った私は、世間一般的には深窓の令嬢だと思われている。
三つ離れた兄(龍臣(たつおみ))がいて、父の愛情は兄へと一心に注がれている。

私の身の回りの世話は、使用人が数人と執事(二谷(にたに))が一人。
屋敷に仕える使用人の間では、深窓の令嬢ではなく、鉄相(牢獄)の令嬢と呼ばれている。

屋敷の奥の部屋に閉じ込められた状態で、学校と屋敷の往復以外、殆ど外出も許されなかった。

同世代の子たちと遊ぶこともなれ合うことも許されず、価値観の違いが浮き彫りになって、学校でも孤立化していた。

幼い頃からの英才教育のおかげで、勉強や音楽、運動といったあらゆることに長けていても、人付き合いだけは未だに苦手。
お父様の機嫌を損ねないように努力はして来たつもりだけれど。

『結婚』も自由にはさせて貰えないのだと、改めて認識した。

「詳しいことは二谷に話してあるから」
「……あの」
「何だ」

踵を返し、部屋を出て行こうとする父を呼び止めた。

「お相手の方は、どんな方なのですか?」