そしてお兄様が来られた日の晩、オストワル辺境伯邸では盛大な宴が行われることになった。もちろん私も参加だ。貴族の社交の場は初めてで、どう振る舞っていいのかも分からない私。一応侯爵の妹なのだが……
 だが、ジョーが私のためにドレスを用意してくれて、グランヴォル家の側近に頼んで支度までしてもらった。ジョーにはお世話になりっきりだ。

 ピンク色のドレスに着替えた私は、目の前の鏡を見て驚いた。そこに映るのは、見慣れたうす汚れた薬師の私ではなく、まるでお姫様だ。

「アン様、とてもお綺麗です」

 側近が頬を染めて言う。お世辞だとは分かるが、その言葉が素直に嬉しかった。これで、少しはジョーに近付けるかな……なんて思ったが……

「アン!」

 迎えに来たジョーは、くらくらするほどかっこいい。黒いスーツを着て前髪を少し分けたジョーは、いつもよりもさらに大人っぽくてフェロモンさえ感じる。かっこ良すぎてジョーを見ることが出来ず、真っ赤になって俯く私を見て、

「……可愛い、アン」

ジョーは甘い声で言う。そういうの、反則だ。
 ジョーは私の前に跪き、手をそっと握る。真っ赤な顔の私は、口元をきゅっと結んで必死に感情を押し殺そうている。だがきっと、きゅんきゅんがだだ漏れだ。

「行きますよ、お嬢様」

 侯爵家の人間だったが、今までお嬢様扱いなんて皆無だった。だから、こうやって甘い甘いお嬢様扱いをされると、ぼっと火がつくほど恥ずかしい。

 ジョーは私の手を握ったまま、そっと口付けをした。それでますます紅くなってしまう私は、ジョーに完全に弄ばれているのだろう。