「一方、それなりに大きく両親の記憶もある僕は、ずっと復讐について考えていた。
 父上の弟が治めるようになってから、ポーレット侯爵領は荒れた場所になってしまったんだよ。
 街には山賊やごろつきが現れ、略奪や殺害が頻繁に起こる。スラム街が拡大する。
 かつての水の都は、泥水の都になってしまった」

 そしてお兄様は、静かに続けた。

「だから僕は、敵討ちをした。父親の仇を討って、僕がポーレット侯爵領の領主になったんだ」


 私の知らないところで、お兄様はたくさん苦労をしてきたのだ。私がぬくぬくと王宮で薬師をしている間に、お兄様はもがき苦しんだのだ。
 お兄様がこんなにも辛い思いをしているのに、平和に過ごしていた自分が憎い。

 それなのに、お兄様は私に言う。

「ごめん、アン。
 アンが王宮から追放されたのは、誰かに嵌められたに違いない。
 僕には敵がたくさんいるから、その中の誰かだろう」

 そんなこと、どうでもいい。私は今ここにいられて、すごく幸せだから。
 それよりも……

「お兄様……辛かったのですね……
 お兄様一人に責任を負わせてしまって、ごめんなさい」

 何もしなかった自分が憎い。
 出来ることなら、時間を戻して欲しい。そうすれば、私はお兄様のもとへ行って力になるのに。

「お兄様は、ずっと一人で戦っておられた……」

 私も孤独だったが、周りには師匠や薬師仲間がいた。でも、お兄様はずっとひとりぼっちだったのだ。

「僕は一人じゃないよ。僕には仲間がいる。
 でも……アンこそ、僕たちの存在すら知らされず、ずっと一人だった。だから……」

 お兄様は、頬を緩ませて私を見た。すごく幸せそうな顔をして。

「アン、やっと見つけたんだ。
 一緒に、ポーレット侯爵領に帰ろう?
 これから君は、一人ではない」