「私は王宮に勤めていたから、遠いオストワル辺境伯領の話はよく知らなかったの。ただ、すごく強い騎士団と、すごく強い騎士団長がいるということくらいしか。
そのすごく強い騎士団長は、怖くて冷たくって、戦いしか能がないのだろうと思っていた。
ジョーは優しいし、いつも私を守ってくれるし、女の子扱いしてくれる。私みたいなただの平民に向かって。
私、女の子で良かったって初めて思った。こんなにも、ジョーに大切にされて……」
思わず溢すと、唇を塞がれた。一瞬何が起こったのか分からなかった。それで、少しずつ状況を理解していにつれ、体が熱を持ち始める。
ジョーが触れる体が熱い。唇がとろけそうだ。そして、胸がきゅんきゅん言っておかしい。
そっと唇を離したジョーは、甘く切ない声で告げた。
「アン。俺は恋に堕ちている」
そんなに甘い声で言わないで。そんなに真っ直ぐに言わないで。ますます離れられなくなってしまうから。
私も、ジョーのことが大好きだ。
「アン。君の家族のことが、少し分かった」
ジョーは私を後ろから抱きしめたまま、頬を寄せる。触れた頬がかあっと熱くなる。
「俺は君の兄に、手紙を出した。もうそろそろ兄から返事が来る頃だろう。
兄もきっと、君のことをずっと気にかけているだろう、アン•ポーレット嬢」
「……ポーレット?」
思わず聞き返していた。
平民で家族のいない私は、自分がアンという名前だということしか知らなかった。私は、アン•ポーレットというのだろうか。
そして、ポーレットという姓もどこかで聞いたことがある気がするが、思い出せないのだった。