太陽の光に黒光する鎧に、兜まで被っている。この重装備は、遠方から来たためだろうか。それとも、オストワル辺境伯領の騎士団が強いための抵抗策だろうか。
 いずれにせよ、オストワル辺境伯領騎士団でないことは確かだった。そして彼らは、きょろきょろと辺りを探している。
 まさかとは思うが、私……ではないよね?
 心臓が嫌な音を立て始めた。

 反射的に、近くの建物の陰に隠れて様子を見る。すると、彼らの会話が聞こえてきた。

「いないな。この国にすごい薬師が来たと聞き、彼女だろうと思ったのだが」

「街の人に聞いてみるか」

 まさかとは思ったが、本当に私のことらしい。この人たちは私を捕まえて、一体どうするつもりなのだろうか。
 濡れ衣を着せて申し訳なかったと謝られるのだろうか。それとも、私の存在を消すためにやってきたのだろうか。
 いずれにせよ、私はこの地に来てからとても幸せだ。もちろん、ジョーとの叶わない恋は辛いのだが。だから王都には帰るつもりはないし、殺されるのはもっと御免だった。
 とにかく、見つかりませんようにと必死で祈る。


 そんななか……


「見慣れぬ奴だな。お前らは何者だ?」

 私を焦がして甘く溶かす、その声が聞こえた。その声が聞こえた瞬間、身体中が熱くなる。そして、ホッとして泣きそうになった。
 建物の隙間から覗くと、二人の黒い鎧の騎士の前に、いつもの隊服を着たジョーが立っている。その顔は厳しく、腰に差した剣には手がかかっていた。

「名乗って欲しいなら、お前から名乗れ」

 馬鹿なのか用心深いのか、黒い騎士二人はジョーに向かって喧嘩を売っている。だからジョーは剣に手を当てたまま告げた。

「俺は、オストワル辺境伯領騎士団長、ジョセフ•グランヴォル」