ソフィアさんの治療院は、私の家からすぐのところにあった。三階建ての立派な建物で、裏には広大な薬草園が広がっているらしい。薬草園と聞いてウキウキの私。一刻も早く薬草園を見に行きたかったのだが……
 治療院の前には、すでに数人の患者が列を成していた。そしてソフィアさんを見ると、

「薬師様、助けてください」

すがるようにそのか細いソフィアさんの体にしがみついた。患者は、大人だけでなく子供もいる。子供はぐったりとして母親に抱かれ、母親も涙を浮かべてソフィアさんに近付く。
 こんな様子を見て……私は思わず言ってしまった。

「ソフィアさんから離れてください。
 感染したかたは、今後治るまで他の人との接触を絶ってください!」

「えっ!?」

 私の言葉に、人々は明らかに不満の顔をする。こんな顔をするのもよく分かるが、まずは感染対策だ。王宮薬師として、伝染病の感染対策には徹底して取り組んでいた。王都では当然であることが、この地方都市では出来ていないのだ。

「この病気はおそらく感染症です。他人に移して感染を拡大してはいけません!」

 我ながら冷たい言葉だと思う。特に死期が近付いているようなら、家族のもとで幸せに過ごして欲しい。だけど、薬師としてそれは許せない。いや、きっと治すから。

「ちょ……ちょっと、アンちゃん!?」

 ソフィアさんは私の想像以上に強気な態度に混乱している。きっと、優しいソフィアさんは、患者に寄り添うという治療スタイルなのだろう。それはとても大切だ。だが、時と場合によっては、鬼になることも必要だ。

「ソフィアさん……生意気言ってすみません。
 でも……私を信じてください!!」

 私は真剣な目で、ソフィアさんに訴えていた。