「俺は森の中で死ぬところだった。だけど、アンが懸命に看病してくれた。
 俺はアンを見て、女神が舞い降りたのだと思った」

「そんな……大袈裟な……」

 私の声は震えていた。こうやって、恥ずかしげもなくまっすぐ言葉をぶつけてくるジョーに、胸は何度も甘く撃ち抜かれている。

「アンと共にここまで来る道中、食事時に美味いスープを作ってくれたり、冗談を言って笑い合ったり。そんな普通が幸せなんだと、俺は思った」

「うん。私は、ジョーが元気になって本当に嬉しいよ」

 どぎまぎしながらも、そう伝えるのが精一杯だった。ジョーが再びこの地に戻って来られて良かった。きっと、ジョーの帰りを待つ人もいる。それが私には羨ましくも思う。

「でも、もう無理はしないでね?具合が悪くなったら、私が治すから!」

「頼もしいな」

 目を細めて嬉しそうに笑うジョーを見て、また心が温かくなった。そして私もジョーと同じように、幸せそうに笑ってしまったのだ。
 ジョーといると、調子が狂う。こんなに甘くて苦しい気持ち、いまだかつて感じたことはない。私は、変な薬でも間違って飲んでしまったのだろうか。

「アン。まずは帰ったことを、オストワル辺境伯に報告する。
 その時に、アンが暮らすところはないか、辺境伯に聞いてみよう」

「うん……」

 私は頷いて、ジョーに促されるまま立派な門を潜った。門の横に立っている騎士もまた、驚いてジョーを見ていることに気付きながら。