「それで?久我くんの好きな女の子のタイプは?」

美鈴ちゃん、時を戻したね。
久我くんは困ったように苦笑いする。

「じゃあ美鈴さんは?どんな男性が好きなんですか?」

なるほど、必殺逆質問か。
いいかわし方だわ。

「私はねぇ…。背が高くてイケメンで、優しくてスマートで、王子様みたいな御曹司!」

ピクッと私の手が止まる。
その単語は聞き捨てならない。

「美鈴ちゃん。御曹司だけは絶対にやめた方がいい」

「えー、急にどうしたんですか?華さんって、いつもはこういう恋愛の話は乗ってこないのに」

「うん。私は恋愛には興味ないの。でもね、御曹司だけはやめた方がいいと思う。そもそも御曹司に対して、みんな間違ったイメージ持ってるよ。合ってるのはお金持ちってことだけ。結局は恵まれた環境でぬくぬく育った、世間知らずのワガママ坊っちゃんだよ」

「やだー!華さん、元カレがそういう御曹司だったんですか?」

「ううん、違うけど」

元カレならまだ良かった。
なにせ今婚、今の婚約者なのだから。

すると黙って聞いていた久我くんが突然口を開いた。

「どうして恋愛に興味ないんですか?」

は?わたくしですか?

「別にこれと言って理由はないんだけど。まあ、強いて言うなら面倒くさいから…かな?」

隣で美鈴ちゃんがため息をつく。

「恋愛が面倒くさいなんて、信じられない。ねえ?久我くん」

普段ずっと心に溜めていた疑問を久我くんに同意して欲しいらしく、美鈴ちゃんは長々と語り出した。

「華さんて、別に女捨ててる訳じゃないですよね?そりゃ、化粧っ気はあんまりないしファッションにも無頓着だけど、ちゃんとすればイケますよ。なんなら私がプロデュースして、ミラクル大変身させちゃいます。そうすればモテモテになって、華さんだってその気になるかも?ね、一度やってみませんか?26歳で恋愛しないなんて、もったいなさすぎます。あとで後悔しても遅いんですよ?」

「後悔か…。あんまりしたことない。戻るより突き進んじゃった方が早いから」

「うわっ、男前!華さん、中身は男なんですか?」

「そうかもね」

少なくともあのキモ川キモシよりは男前だと思う。

って言うか、やだ!もうあの人のことは考えたくない!

「とにかく御曹司はやめなよ?美鈴ちゃんには、私みたいになって欲しくない」

「えー、いったい何があったんですか?やっぱり華さん、御曹司とつき合ってたんですね?」

「いや、つき合ってない。けど御曹司がろくなもんじゃないってことは分かる」

「そんな言い切らないでくださいよ。私は王子様みたいな御曹司、絶対にいると思います!」

いつか必ず出会えるはずー!と、美鈴ちゃんは両手を組んでうっとりしている。

(やめた方がいい。悪いこと言わないから、御曹司だけは)

私は世話焼きおばちゃんのように、ひたすら心の中で繰り返していた。