やがて時間になり、私は父さんと一緒に丸テーブルに着く。

主催者の挨拶と乾杯の後、しばし食事の時間となり、今のうちに腹ごしらえをと、ひたすら美味しい料理を堪能した。

「華、おい、華!」

ん?
どうやら食べるのに夢中になっていたらしい。
父さんに肩を叩かれて我に返る。

「ほら、下川社長が挨拶されるぞ」

おお、お父様が。
よくお顔を拝見しておかねば。

ステージに注目すると、品の良い白髪混じりの男性が、笑みを浮かべながらマイクの前に歩み出た。

おや?キモくない。
キモ川じゃないわ、お父様は。

「えー、皆様こんばんは。只今ご紹介にあずかりました、下川グループ代表取締役の下川 (あつし)でございます」

声もダンディ。
しゃべり方も大人の余裕が漂う。
さすがは大企業の社長だ。

ほんとにキモシとは親子なの?

そう思っていると、お父様は建築や不動産業界の益々の発展を祈念すると述べたあと、少し口調を変えた。

「実は今夜は、我が下川グループの次期代表となる愚息を連れて参りました」

え、来てるの?

お父様の視線を追うと、前列の中央のテーブルにスーツのキモシと和服のママの姿があった。

「清、ご挨拶なさい」

お父様がマイクで促すと、キモシは、ええー?と間延びした大きな声を上げる。

「やだよー。何話せばいいんだよー」

うわっ、相変わらずだ。
どうする?お父様。
無理なんじゃない?

他人事なのにハラハラしてしまう。

「清、これからお前が仕事でお世話になる方々だ。きちんと自己紹介しなさい」

おおー、引き下がらないのね、お父様。

「清ちゃん、ほら。お名前を言うのよ。最後によろしくお願いしますってお辞儀してね」

お母様、ささやきましょう。

「えー、もう、仕方ないなあ」

そう言うと、キモシはノロノロと立ち上がった。

「下川 清でえす。よろしくお願いしまあす」

鼻にかかった締まりのない声。
語尾を上げて名前を名乗ると、最後にペコッと形だけ頭を下げた。

会場内にかすかなざわめきが広がる。

ニヤニヤと意味ありげに笑いながら、隣の人と何やらコソコソ話すゲスト達。

ステージには、まだお父様がいるのに!

私はなぜだか悲しくなった。