引き受けて結婚した場合。

デメリット…キモい生活を強いられる。
メリット…お金の心配がなくなる。

お金!これは大きい。
めちゃくちゃ大きい。

父さんの会社も仕事を増やしてもらえ、経営は持ち直すだろう。

これは私一人の問題ではない。
父さんの会社の従業員とその家族の人生も背負っているのだ。

そう思えば、これほどありがたい話はない、とさえ思えてくる。

キモメンも、3日で慣れると言うではないか。

それに幸い、キモシくんは私に興味がない。
常にママと一緒だ。

お邪魔はしませんとも。
どうぞお二人で毎日をキモく楽しくお過ごしくださいませ。

おそらく大きなお屋敷にお住まいだろうから、私は離れにでも部屋をもらおう。
そうすれば、顔を合わせずにすむ。

いい、なかなかいいじゃないか!

「父さん、この縁談進めてください」

「えっ、本気か?華」

「もちろん。ただ、デートは重ねたくないの。結納とか結婚式もしたくない。婚姻届を提出して引っ越す。それでいい?」

華…と、父さんは言葉を失っている。
やがてがっくりとうなだれた。

「ごめん、華」

「どうして父さんが謝るのよ?」

「だって、色々父さんのせいだから。華が結婚に興味ないのも、父さんが早くに離婚したからだろう?温かい家庭なんて、お前に味わわせてやれなかった。それに今も、本当は乗り気じゃないのに縁談を進めようとしてる。父さんの会社の為にな」

「そうとも限らないわよ。私だって、一生お金に不自由せずに優雅に暮らせるんだもの。シンデレラストーリーじゃない」

ただ相手が王子様ではないだけだ。

「でも女の子なら、自分を心から愛してくれる人と結婚したいだろう?」

「やだ!父さん。そんなの少女漫画だけの世界よ?結婚なんて、毎日一緒に暮らすんだから、いつまでも好き好き愛してるって言い続けられる訳ないじゃない」

「そんな身も蓋もない…」

「だって本当のことでしょ?夢いっぱいの結婚式を挙げても、今や3組に1組は離婚していくのよ?それなら最初から現実を見据えて、腹くくって結婚した方がギャップに悩まされることもない。割り切った結婚の方が私には向いてるの」

「は、華…。父さん、もう何も言えない」

「オリンピックメダリストみたいなこと言ってないで。ね?縁談、進めておいてね」

「はい…」

父さん、今に楽な生活送らせてあげるからね!

社員の皆さんにも、ボーナス弾んであげられるよ。

ほら、武田さんちは今年息子さんが大学生になったばかりで、奨学金借りてるって言ってたじゃない。

ポーンと学費払えるくらい、お給料上げられるよ!

私は決意に満ちた顔で、よし!と己に気合を入れた。