「これが『コーヒーホリック』のフローズンラテとフローズンバニラ、フローズンティーです。こっちは『サワダ珈琲』のいちごミルクと抹茶ミルク、それにバナナミルクも。他には、コンビニ商品なんですけど、ラムネやソーダのフローズンと…」

「いやいやいや、そんなに買ったの?お腹の事情は考えた?」

「味見したら冷蔵庫に入れて、あとでゆっくり飲みます」

「あ、そうか。なるほど」

「じゃあ早速試飲しましょう」

まずはフローズンラテから。

「んー、美味しい!けど、なんかちょっと物足りないかな?せっかくコーヒーショップの商品なんだから、もう少し本格的なコーヒーの風味が欲しいかも」

なるほど、と頷いて久我くんも飲む。

ちょいと待て!
そのストローは間接キスだ。

「待って、予備のストローあるから…」

「フローズン専用のストローで飲まないとダメですよ。それも含めた商品開発ですよね?」

ごもっとも。

「んー、確かに華さんの言う通りですね。僕ももっとコーヒーが主張する方がいいと思います」

「だよね。バニラはこのままでも美味しい!お子様にはいいかも。フローズンティーは…。うーん、これならいっそ、フローズンロイヤルミルクティーがいいな」

久我くんは、私の意見をサラサラとノートにメモしながら、自分も味わって頷く。

いや、だからそれ、間接キスね。

「いちごミルクはどうですか?」

「見た目はいいね。インスタ映えするかも。おっ、なんか太いストロー」

「果肉がゴロゴロしてるので、ストローもかなり太くしてありますね」

「うん。…あっ、美味しい!いちごの果肉の食感が残ってて、味もしっかり楽しめる」

「へえ、美味しそう」

そう言ってまた久我くんは私のあとに試飲する。

何度も言うけど、間接キスだからね。

「抹茶ミルクも、もう少し本格的な抹茶味が楽しめるといいかな。あずきと、エキストラでバニラアイストッピングしてもいいかも?あとはバナナミルクか…。個人的にハードル高いわ。ちょっとだけにしとこ」

「どうしてですか?バナナ嫌いなんですか?」

「ううん、好きだけど。バナナ×ミルク×冷たい=お腹ピーピーって気がする」

「え、そうですか?いちごは平気なのに?」

「うん。バナナは来るよ。え、久我くんには来ない?」

「どうかな?飲んでみよ」

そう言って、一気に半分ほど飲む。

うわ…、見てるだけでお腹にビッグウェーブが来そう…。

「美味しいですよ?」

「それは何より」

ひと通り試飲を終えると、二人であーだこーだ言いながら意見をまとめる。

「じゃあ、フローズンはコーヒー味をしっかり生かす。フローズンロイヤルミルクティーも試作してみる。クラッシュアイスシリーズは、いちごの果肉をしっかり楽しめるよう食感を残す。抹茶も風味を生かしてあずきの他にアイスも載せてみる。バナナはボツ」

「え、ボツですか?」

「うん。まあ、久我くんのお腹が今日一日なんともなければ考えてもいいけど」

「分かりました。がんばります」

いや、がんばるものではない。

「さてと。それじゃあそろそろ戻りましょうか。今日は15時から外回りだから、資料の準備しなきゃ」

「資料作りなら割りと得意なので、やらせてください」

「おっ、頼もしい。 やってみたまえ」

肩をポンと叩いて先輩風を吹かせる。
が、わずか30分後に脱帽した。

久我くんの資料は、素晴らしかった。
見やすい、読みやすい、分かりやすいの3拍子。

担当指導者なのに、逆に助けられている。
お陰で私は時間と気持ちに余裕を持って、外回りの準備ができた。

いい子が来てくれたもんだわ。

「それでは行ってきます」

資料をバッグに入れ、私は久我くんとオフィスをあとにした。