唐突(とうとつ)に呼ばれ、反射的にそちらを向く。

 血相を変えて走ってくる柚の姿があった。

「柚……! 無事────」

「走って! いいから早く!」

「えっ?」

 廊下の先を指し示しながら、柚はわたしの横を通り過ぎて駆け抜けていく。

 わけが分からずに彼女の背を呆然(ぼうぜん)と見送りかけたものの、すぐそばから轟音を聞いて慌てて振り返った。

「!?」

 いましがた柚のいた西側の廊下が、ガラガラと崩れ落ちていっている。

 チャイムは一度しか鳴っていないのに、なぜか2階の崩落も始まっているようだった。

 床を蹴り、柚を追って駆け出す。

「どういうこと!? 何で……」

「分かんない! そもそもあたしたちの考えが間違ってたのかも」

 1時間が経過するごとにワンフロアずつ崩落していく、という憶測のことだろう。

 間違っていたのだろうか。
 それでも昨晩は確かに、2階まで崩れ落ちることはなかった。

 崩落に飲まれないよう急いで廊下を駆け抜け、東階段を上っていく。

「てか、この非常ベルも何なのよ! うるさくて何も聞こえないじゃん!」

 先ほど突如として鳴り出した非常ベルは、依然(いぜん)として止む気配がない。

 その騒音と崩落の轟音が鳴り響いているこの状況では、とてもあの化け物の接近に気づくことなんてできないだろう。

 出会い(がしら)に鉈で断ち切られる可能性もある。

「こ、これ……どこまで逃げればいいの!?」

 校舎の揺れに身体を持っていかれそうになりながら、必死で駆け上がっていく。
 平衡(へいこう)感覚はとっくに失った。

 3階へさしかかってもなお、崩落は続いている。

「分かんないけど、止まったら落ちる!」

「でも屋上の鍵ないよ!」

「あたしもないけど……! とにかく上がるしかないじゃん!」

 ひたすら上を目指し、脇目も振らずに走り続けた。

 ほんの1秒前に踏みしめていた段差が、次の瞬間には崩れて闇の彼方(かなた)に消え去っている。

 心臓が痛い。肺が熱い。
 それでも気力でねじ伏せ、足を動かし続ける。

 もしかしたら、上で化け物が待ち構えているかもしれない。
 朝陽くんの無惨(むざん)な死体を目にすることになるかもしれない。

 だけど、柚の言う通り“立ち止まる”という選択肢は残されていない。

 最後の階段にさしかかったとき、はっとした。

「開いてる……!」