────吹き抜けであるために声のボリュームや足音に気をつけながら、逐一(ちくいち)上を確かめては柱の影に隠れて進む。

 時間はかかったものの、無事に職員室前へとたどり着くことができた。

「……いくよ?」

 朝陽くんが取っ手に手をかけ、横に引いた。

「えっ」

 驚いてしまう。
 予想に反して、なんと扉はスライドして開いたのだ。

「あれ……」

 開けた張本人の彼でさえ呆気(あっけ)にとられた様子だ。

 昨晩は確かに鍵がかかっていたはずなのに。思わず目を見交わす。

「開いてんじゃん! よかったー」

「そんじゃ鍵とって屋上行こうぜ」

 素直に喜びをあらわにする柚と夏樹くん。
 その一方で高月くんの表情は晴れず、むしろ険しい顔をしていた。

 職員室の中へ足を踏み入れる。

 机は整然と並んでいるものの雑多な印象を受け、気をつけないとふいに何らかの音を立ててしまいそうだ。

 足元に気をつけながらキーボックスの前へと向かう。
 各教室の鍵はその中に保管してあるはずだ。

 そこにも鍵がかかっているかも、と思ったけれど、なぜか全開に開いていた。

 ただ────。

「……何これ、1個もないじゃん」

 中にかけられているはずの鍵は、ひとつも見当たらなかった。

 残された()き出しの細いフックだけが、スマホの光を受けて影を作っている。

「……やっぱり、地道に探すしかなさそうだな」

 高月くんが腕を組む。

「しかも、開いてる教室と閉まってる教室は毎回ランダムみたいだ」

 それは、何とも無慈悲な事実だった。

 たとえば昨晩の間に高月くんが何部屋か調べてくれたけれど、結局はそれも既に無に()したわけだ。

 昨日は開かなかった職員室が今日は開いていたように、探す必要のある鍵が毎回変わる、ということ。

「何だよ、それ……。じゃあ今日頑張って探し回っても意味ねーじゃん!」

「……いや、意味はあるだろ」

「どんな?」

「忘れちゃだめなのは、俺たちの目的は“鍵を探すこと”じゃないってこと」

 そんな朝陽くんの言葉にはたと思いつく。

「そっか。“脱出すること”だ」

「……そのために、屋上から飛び降りる?」

 心臓がどきどきした。

 雲を掴むようでしかなかった憶測が、何となく明確な輪郭(りんかく)を持ち始めた気がする。

「鍵を探すのは前提。屋上から飛び降りるのは手段だ。僕たちはただ、この奇妙な校舎から生きて脱出すればいい」