ふいに耳元でささやかれ、息をのむ。
 心臓を直接鷲掴(わしづか)みにされたようだった。

「うわぁっ!!」

「ひ……っ! なに!?」

 夏樹くんと柚が叫ぶ。
 わたしはあまりの衝撃と恐怖で声すら出なかった。

 確かに耳元で聞こえたけれど、どうやら全員同じ目に遭っているみたいだ。

「しっ! 大声出すな」

「ご、ごめん。でも……!」

 慌てたように周囲を確かめる高月くん。

 わたしも耳を澄ませてみると、先ほどまでは聞こえなかった音を拾い上げた。

 ──ぴちゃ……

 ──ズズ……ズ……

 はっと目を見張る。

「来てる……!」

「本当だ」

「やばい、どこ……!?」

 おさえた声で言葉を交わし、あたりを見回した。

 ライトをつけないとまるで何も見えないけれど、つけていたらその明かりで見つかってしまう。

「ライト消せ、早く」

 そう言った高月くんに従い、彼以外の全員が消灯した。

 彼はスマホの点灯部分を手で塞ぎ、最低限の視界を確保してくれる。

「…………」

 息を殺し、じっと身を潜めた。
 激しく打つ心音が耳元で聞こえる気がする。

 ──ぴちゃ……ぴちゃ……

 ──ズズ……

 音の定位(ていい)を測ろうと神経を()ぎ澄ませた。

(上……?)

 そろそろと見上げてみる。
 近づいてくる化け物の音は、踊り場で反響して上方向から聞こえる。

「4階っぽくない……?」

 潜めた声で言うと、高月くんが振り向いた。

「いまのうちに下りよう」

 化け物が下りてくる前に。あるいはワープしてくる前に……。

 踏み出す一歩に集中力を注ぎ、音を立てないように階段を下りていく。

 無意識に息を止めていたようで、目眩(めまい)を覚えた。



 どうにか1階までたどり着くと、再びライトをつける。

 逃げるように階段から遠ざかりながら、何度も後ろを確認してしまった。

(来てない……)

 ワープしてくる可能性はあるものの、ひとまずは脅威(きょうい)からは脱したようだ。
 ほっとする。

「……あー、びびった。何だったんだろ、さっきの声」

 朝陽くんが訝しむような調子で言った。

「“こっち”とか言ってたよね……」

「もしかしてあの化け物を呼んでたのかな?」

「じゃあ、敵はあの化け物だけじゃないってことかよ」

「その可能性はあるけど……あれはおまえらの声で居場所がバレたんじゃないのか」

 いずれにしても、油断ならない。

 あの化け物のほかにも脅威が存在するのなら、ひとときも気を抜けない。