そう言った朝陽くんの笑顔が、小さい頃に見たそれと重なった。

 数年ぶりにまともに話して、どう接するべきか緊張していた部分もあったけれど、お陰で随分と和らいだ。

「……うん、朝陽くん」

 気恥ずかしい気持ちをおさえ、頷きつつそう呼んでみた。

 心の中では平気で呼べるのに、いざ声に出すとちょっと小さくなってしまう。

「ありがと、花鈴」

 柔らかい声色が耳に届くと、どくん、と心臓が大きく打った。

 気持ちがあふれてきそうになって慌てて飲み込む。

 どうやらわたしの初恋は、まったく()せていないみたいだ。
 それどころかますます鮮やかに色づいていく。

「な、何か懐かしいね。あのときもこうして、ふたりで一緒に帰ったりしたっけ」

 誤魔化すように笑いながら言った。

「したした。それで男子たちにからかわれたりとか……花鈴、あれ嫌じゃなかった?」

「え、と……」

 確かに恥ずかしいような照れくさいような居心地の悪さは感じたけれど、それ以上に嬉しかった。

 朝陽くんと一緒に帰れることが。
 彼の隣を歩けることが。

「嫌じゃなかったよ」

 さすがにそこまでは正直に言葉にできなくて、ただそう答えるに留まった。

「マジで? じゃあ……よかった」

 朝陽くんはどうだったのか、とは聞くまでもなかった。

 その横顔は優しくて、浮かべた笑みは穏やかで、くすぐったい気持ちになる。

 もしかすると、あのとき想いを伝えていたら、わたしたちはいまとは違う関係性になっていたのかもしれない。

(……なんて、期待しすぎかな?)

 だけど、そうだったとしても、いまの距離感もわたしにとっては心地いいものだった。

「ねぇ、覚えてる? 帰り道、猫についてって遠くまで歩いたよね」

 朝陽くんが懐かしむような口調で切り出す。

「猫?」

「そう、影みたいに真っ黒な猫。花鈴が“どこまで行くんだろう”って言ったから、俺が“ついてってみよう”って」

 わたしは前を向くと眉を寄せた。

 懸命に記憶を辿ってみたけれど、どうにも思い当たらない。

「それで、気づいたら全然知らないとこにいて、心配して捜しに来てくれた親たちにふたりでめっちゃ怒られたの」

 その光景を想像することはできても、思い出すことはまったくできなかった。

「そんなことあったっけ……?」