「……覚えててくれたんだ、わたしのこと」

 図らずも高鳴った鼓動が加速していって、逃げるように目を逸らした。

「当たり前じゃん。……忘れるわけないって」

 そのうち、ちゃんと話したいと思っていた。
 ずっと声をかけたくて、でも勇気が出なくて。

 まさか、こんなことがきっかけになるなんて思わなかった。

(でも……嬉しい)

 もう一度、朝陽くんと話せたこと。
 ようやくちゃんと再会できた。

「……てか、ごめん」

「えっ、何が?」

「昨日、昔みたいに呼んじゃった。名前で」

 どき、と心臓が跳ねる。

『花鈴……っ!!』

 とっさだったり追い詰められたりしてのことだったとはいえ、その声はよく耳に残っていた。

「全然気にしないで、謝らないでよ!」

「本当? 馴れ馴れしくなかった? きもって引かれてたらどうしよう、って俺……」

「引かないよ! ……むしろ、わたしはその方が────」

 ふいに喉が詰まって言葉を切った。

 自分でもびっくりするほど正直な気持ちを言いかけてしまって、はっと我に返ったのだ。

 だけど、遅かった。

「……その方が、なに?」

 朝陽くんの窺うような眼差しに捕まる。

 何気なく、でもそれでいて何かを期待するような色が滲んでいた。

 勘違いしそうになる。
 過去に閉じ込めたはずの想いが、淡く光り始めて。

「……嬉しかった」

 観念(かんねん)して続きを口にした。
 頬が熱くなる。

 名前で呼んでもらえて嬉しい、なんて、彼を意識していると告げるも同じに思えて照れくさい。

「……俺も」

 ややあって、彼の声が降ってきた。

「え」

「俺も嬉しかった。“朝陽”って呼んでくれたの」

 その言葉通り頬を緩めながら、噛み締めるように続けられる。

「……わたし、呼んだっけ?」

「覚えてない? まあ、状況は最悪だったからなぁ……」

 もしかすると死の間際、ほとんど無意識のうちに呼んでいたかもしれない。

 あまりの苦痛でそのあたりの記憶が曖昧(あいまい)になっていた。

「でも、いいや。それならもっと呼んでよ、名前で。昔みたいにさ」