弾かれたように柚と夏樹くんも手すりに飛びつく。
 わたしも階下(かいか)を見下ろしたとき、ちょうど1階が崩れ去ったところだった。

 けれど、崩落は止まらない。
 2階までもが瓦礫(がれき)と化しつつあった。

「何で!? ベルもチャイムも鳴ってないのに」

「てか、鍵さえ見つけてねーって!」

「でもこれ、上に逃げるしかないよな?」

 焦ったように朝陽くんが言う。
 このままでは2階も、そしていまいる3階も崩落して、わたしたちは闇に飲み込まれてしまう。

「急ごう」

 高月くんが東階段の方へ駆け出した。
 柚、夏樹くんも慌ててそのあとを走っていく。

(わたしは……)

 その場から動けなかった。

 もしかしたら、このまま崩落に飲まれて死ぬのが正解なのかもしれない。
 それが白石芳乃の望みなのかもしれない。
 みんなを守る代償なのかもしれない。

 そう思ってしまった。
 彼女の姿は消えたけれど、わたしの申し出を受け入れてくれた、という手応えは正直ない。確信が持てない。

「花鈴!」

 ぐい、と手を引っ張られて我に返った。
 戸惑いながらも、朝陽くんに連れられるがまま廊下を駆け出す。

「あ、朝陽くん……。わたし────」

「約束しただろ。花鈴のことは死なせない」

 真剣な横顔に何も言えなくなった。
 唇を噛み締めて前を向く。

「……っ」

 強く握り締めてくれる彼の手は、わたし以上に冷たい。
 きっと怖いんだ。怖いけれど、わたしを守ってくれようと必死なんだ。

 その覚悟を振りほどくことは、到底できなかった。



 速度を上げ、迫りくる崩落の波から逃げ続ける。
 4階に上がる階段の踊り場で3人に追いついた。

「ねぇ、屋上って開いてんの……!?」

 ひときわ不安そうに柚が尋ねる。
 開いていないなら逃げたところで意味はない。

 最終的に全員で崩落に巻き込まれることになる。
 その場合、わたしが芳乃の怒りを買ってしまったことを意味するのかもしれない。

「分からない。けど、これじゃどのみち鍵なんて探してられないだろ」

「頼むよ、マジで……。死にたくない!」

 祈るように夏樹くんが言う。
 最上階へと続く階段にさしかかったとき、唐突に光が射し込んできた。

「何これ!? 明るい」

 屋上のドアにある()りガラスの小窓は、赤色に近いオレンジ色に染まっていた。
 ぼんやりと光っていて、夕焼けのように見える。

 いつものような、墨で塗り潰したみたいな暗闇は広がっていなかった。