でも、逃げちゃいけない。
 尽くしてくれたみんなを裏切るような真似だけはしたくない。

「わたし、もう1回試してみる」

 強い意思を持ってそう告げると、それぞれ顔を上げた。

「試す、って何を?」

「まさか化け物との対話をか?」

 困惑の表情や不審がるような視線を受け止め、真剣に頷いて答える。
 みんなの瞳が驚愕(きょうがく)で見開かれた。

 悪夢を終わらせる方法は“裏切り者”を特定して殺すこと。
 だとしても、芳乃が望んでいるのはそれだけじゃないはずだ。

 いつか話したことを思い出した。

『────あの子はもしかしたら、知って欲しいのかもしれない』

 闇に(ほうむ)られた死の真相を。
 事故や自殺ではなく、殺されたのだという真実を。

 それでも、無関係な人たちを呪いに巻き込んで殺す、というのはやっぱり度を越していると思う。

 ただ憎しみを募らせ、復讐したいという激情に突き動かされているだけの可能性はあった。

 だから彼女は最初、5()()という人数が揃ったときに現れた。

 10年前、芳乃が呪い殺した生徒も5人だった────自分を苦しめた彼ら彼女らに見立て、悪夢に閉じ込めて死に追いやっているわけだ。
 今回はたまたまわたしたちがそのターゲットになっただけ。

 そうやって、延々続けていくつもりなのだろう。
 自分本位な復讐を。

 そう考えると、芳乃と話ができる可能性は限りなく低いように感じられる。

(だけど、やっぱりそれだけじゃないはずなんだ)

 心の内でかぶりを振って、気を持ち直した。

 真相を知って欲しい、と望んでいる。
 自分に手をかけた“裏切り者”を暴いて殺して欲しい、とも。

 そのためにメモで情報をくれたり、残機という猶予(ゆうよ)が与えられたりしてきた。
 それなら、懸けてみる価値はある。

 何よりわたしが“裏切り者”なのだとしたら、彼女に言わなきゃならない言葉がある。
 果たすべき責任がある。これはけじめだ。

 納得してくれるかどうかは分からない。許してくれるかどうかだって。
 でも、呪いを解くまではいかないにしても、いまここにいるみんなのことだけは、解放して欲しい。

「……化けもんと話すったってさ、頼んだら助けてくれんの? いまさら?」

「そうよ……。結局襲いかかってくるって、あんたさっき自分で言ってたじゃん」

 ふたりの言葉を(くつがえ)せるような合理的な反論は、残念ながらできなかった。

「もうあとがない。そんな不確実なことを試してる余裕はないだろ」

 高月くんが冷静に追い討ちをかけてくる。

「そう、だけど……」

 わたしは一度うつむき、両手を握り締めた。
 それでも、考えを曲げるには至らない。

「でも、じゃあ……この中の誰かを殺せる?」

 そう言うと、一拍置いてから瞬間的にそれぞれの視線が交錯(こうさく)した。

「まだ“裏切り者”が誰なのかも分かってない。それこそ不確かな中で、殺せるの?」