扉に手をかけた朝陽くんが力を込める。
 けれど、手応えに阻まれたらしく開かなかった。

「だめだ。図書室の鍵はなかったよね?」

「うん、持ってない……」

 一緒に探して見つけた分の鍵は、わたしがまとめて持っていた。
 その中に図書室のものはない。

「じゃあ、次……あれ?」

 歩き出した朝陽くんが不思議がるような声を上げ、ぴたりと足を止めた。

「どうしたの?」

「開いてる……」

 照らし出す先を目で追う。
 図書室の隣に位置する司書(ししょ)室の扉が開け放たれていた。

「本当だ」

 (いぶか)しむと同時に警戒しながら中を覗く。
 人の気配はしない。

 棚に並んだ本には手がつけられていないものの、デスクの引き出しが開けっ放しになっていたり、その中身が床に散らかっていたり、鍵を探したような痕跡(こんせき)が残っていた。

「夏樹くんかな?」

 2階はもともと彼が()け負って探索してくれていた。
 ここは、1階へ下りてきて合流する前に調べていたのかもしれない。

「そうっぽいな」

 わざわざ調べ直す必要はないため、司書室を通り過ぎる。

 次は学習室だ。
 そこは閉まっていて、鍵も開かなかった。

 さらに移動して確かめると、その隣の資料室は司書室と同じ状態だった。
 扉が開いていて、調べた跡が残っている。

 突き当たりまで来た。
 角を曲がり、西階段の前を通ってお手洗いも横切る。
 そこもきっと既に調べてある。

 南校舎側の廊下に出ると、A組から順にざっと確かめていく。

 北校舎と同じだ。
 扉が開いている教室は既に調べ終えてあり、閉まっている教室はそもそも施錠(せじょう)されている。

 2階を一周して、わたしたちは東階段前に戻ってきた。

「夏樹、あいつ探すのめちゃくちゃ早いな」

 驚き半分、感心半分といった具合で朝陽くんが言う。
 施錠されている教室以外、2階のすべてを既にひとりで終えていたのだ。

「そういえば、本気出すって言ってたね」

「言ってた言ってた。(あなど)れないなぁ」

 朝陽くんが肩をすくめて笑い、階段を上り始める。
 わたしもついて上った。

(わたしのためにも、とも言ってくれた)

 夏樹くんは自分のしたことを心底反省して、罪悪感を感じて、どうにかしたいと思ってくれたのだと思う。

 包丁を持って“残機を返したい”と言いにきてくれた、あの切実な表情を思い出した。

 それと同時に、わたしを庇うため自分を犠牲にした柚の姿も。

 黙々と3階の探索を進めてくれているであろう高月くんのことも。

「…………」

 いま、すぐそばでわたしを守ろうとしてくれている朝陽くんの背中を見上げる。

(もし、わたしが“裏切り者”だったら)

 先ほどと同じことを考えた。

 彼らの命を、心を、踏みにじっているように思えてならない。
 わたしが偽物なら、いますぐにでも消えてなくなりたい……。