とっさに笑おうとしたけれど、頬が引きつった。
 無視できない不安感が急速に渦巻いて、わたしを飲み込んでいく。

「そう、日が落ちても見つかんないときあった。いくら呼んでも出てこなくて、みんなで必死に探してさ。花鈴、隠れたまま寝ちゃってたんだよね」

「そうなの?」

 他人事みたいに感じられて、つい正直に驚いてしまった。

「あれ、覚えてない?」

「あ、あんまり……」

 曖昧(あいまい)に誤魔化して苦く笑う。

 かくれんぼをして遊んだという記憶はある。
 でも、具体的なエピソードを持ち出されると思い当たらない。
 猫の話をしたときと同じだ。

『つまり、その“裏切り者”も記憶を書き換えられてて……白石芳乃の呪いに利用されてるのかも』

 自分の言葉が(おの)ずと浮かんできた。
 ますます不安が膨張(ぼうちょう)し、肥大化(ひだいか)していく。

 記憶が曖昧なのは、思い出せないのは、それが偽物だからなのかもしれない。

(まさか……)

 冷えきったような心音が動揺を誘う。

 信じられない。信じたくない。
 でも、()()可能性は常について回っていた。

(まさか、わたしが……)

 わたしが“裏切り者”なのかもしれない。

 わたしが、白石芳乃を殺した……?



     ◇



 波立って揺れ動く感情が表に出てこないように必死で抑え込みながら、鍵探しに集中しようとした。

 でも、1秒後にはまた考え込んでいる。
 全然身が入らない。

「ないねー、屋上の鍵」

 朝陽くんが言った。

 生徒会室、視聴覚室を調べ終えたものの、手に入ったのは4階にあるコンピュータ室の鍵のみだ。
 残りの手持ちの鍵も、3階より上の教室のものばかり。

「次は図書室か」

 視聴覚室の隣は図書室。
 広いけれど、本をすべてひっくり返すような無謀(むぼう)な探し方をしないのであれば、探す場所はそれほど多くない。

 ただ、スマホを失ったわたしは彼と離れられなくなった。

 探すにも移動するにも、光源がないと話にならない。
 明かりを失うのは、この空間では目を開けていないのと同じことなのだ。

 だから彼が照らして見える範囲を一緒に調べるしかなくて、通常よりも時間がかかってしまう。

(もし、わたしが本当に“裏切り者”だったら……)

 鍵を探す意味なんてあるのだろうか。

 生き延びてもどうせ死ぬ。殺される。
 既に死んでいるけれど、また死ぬことになる。

 何度も何度も、忘れ去っては殺され続ける。
 ()り込まれた偽物の記憶に右往左往して、夢の中では芳乃に、現実では仲間たちに殺されるわけだ。
 永遠にその繰り返し────。

「開くかな」

 そんな彼の声で我に返る。
 絡みついてくる思考を振り払うようにかぶりを振った。

(いまは目の前のことに集中しないと)