「……てか、さっきはごめん」

「えっ?」

 突然謝られ、戸惑ってしまう。
 何のことだろう。

「必死だったとはいえ近すぎたよな」

 わたしを(かくま)うように庇ってくれたことだ、と思い至る。
 その距離感を思い出し、いまさら緊張してきた。

「ううん……! 助かったよ。すごくほっとしたし」

 言いながら、思わず自分の肩に手を当てる。
 彼が安心させるように触れてくれたところに。

「なら……よかった」

 どこか遠慮がちに言い、わずかに微笑んだ朝陽くん。
 北校舎側の廊下を歩き始めたその背中についていく。

「……ちょっと思い出すね、昔のこと」

 おもむろに彼が言った。

「よく一緒に遊んだじゃん。かくれんぼとか鬼ごっことか」

 ああ、と声がこぼれる。
 化け物から隠れて、捕まらないように逃げて、そんな行動が過去を思い起こさせたのだろう。

 わたしと朝陽くんとほかの友だちも一緒に、帰り道にある公園で、ランドセルを放り出しては元気に遊び回っていた。

「したけど、こんなに怖くはなかったよ……」

「それはそう」

 おかしそうに彼は笑った。
 朝陽くんの中では、わたしとの思い出はどうやら悪いものじゃなさそうだ。
 以前、猫のことを話したときも楽しそうだった。

(猫のこと……)

 ふと思い出し、ざわざわと心がさざめいた。

(わたし、どうして覚えてないんだろう?)

 あの頃のわたしたちは確かに仲がよかったけれど、ふたりきりで何かをしたことはそれほど多くない。

 そうすると周囲にからかわれたり噂されたりするから、なかなか積極的にはなれなかった。

 意識しているのに興味のないふり。
 意気地(いくじ)なしのわたしは素直になれなくて、結局「好きです」と伝えられないまま離れ離れになった。

 でも、だからこそふたりだけの思い出は、忘れられるわけがないと思う。
 それなのに、どうして────。

「花鈴ってさ、隠れるのうまかったよね」

 そんな彼の言葉に、はっと意識が現実へ引き戻される。
 いや、夢の中ではあるのだけれど。

「え?」

「見つかるのはいつも最後だった。見つからないときもあったし」

「……そうだったっけ?」