今度はわたしを殺そうと狙っているのかもしれない。

 ますます震えがひどくなった。
 あまりの恐怖に皮膚が粟立(あわだ)ち、ぞわぞわと悪寒(おかん)が這う。

 おののいて浅くなった息遣いさえこだましているような気がして、わたしは手で口元を覆った。

 必死で恐怖を飲み込もうとするけれど、苦しくてたまらない。
 涙が滲む。

 そのとき、肩に触れている“彼”の手に、ぎゅっと力が込められた。

「!」

 大丈夫────そう言ってくれている気がする。
 お陰で少しずつ落ち着きを取り戻せた。

 ──ガッ!

 ──バキッ!

 突如としてそんな音が響いてきたかと思うと、廊下の方にうっすらと見えていた白い光が(つい)えた。
 わたしのスマホのライトが消えたのだ。

 恐らく叩き割られたのだと思う。
 あたりは完全な闇に浸かってしまった。

 ──ぴちゃ……

 ──ズ……ズズ……

 だんだんと音が遠ざかっていく。
 幸いにも化け物は引き返してくれたみたいだ。

 それに伴って金縛りが解けていくようだった。
 だけど、強張っていた身体から力を抜いても、()っているように感じられて痛い。

「…………」

 やがて完全に音が聞こえなくなると、手を下ろして深々と息をついた。
 “彼”が体勢を戻し、スマホのライトをつける。

「……朝陽くんだ。やっぱり」

 その顔を見たとき、気づかないうちに小さく笑んでいた。
 彼もまた、どこかほっとしたように力を緩めたのが見て取れる。

「ありがとう、助けてくれて……」

 あのまま動けずにいたら、間違いなくわたしも殺されていただろう。
 それは実際の死に直結するというのに。
 柚の犠牲と優しさも無駄にしてしまうところだった。

「……間に合ってよかった」

 余裕のない態度ではあったけれど、朝陽くんはそう返してくれた。

 恐らく西階段から2階へ上がり、ちょうどわたしたちの反対、北校舎側からこちらへ向かってきていたところだったのだと思う。

「夏樹くんは?」

「1階で別れてそれっきり」

 彼は不安気な表情で答えた。

 1階の西側を分担して探索していたようだ。
 合流する前にチャイムが鳴って崩落した。

 いま姿がないことを思うと、3階以上へ移動したか、あるいは最悪1階の崩落に巻き込まれてしまった可能性も(いな)めない。