ふいに柚が声を上げる。

 プレートには“視聴覚室”とあった。
 屋上でなくても、鍵を見つけられたことは大きい。

「やった……!」

「よし、じゃあ早く次────」

 ──キーンコーンカーンコーン……

 スピーカーがノイズを発し、音割れしたチャイムが鳴り響いた。
 その重低音がお腹の底に響いてくる。

 時間切れだ。

「うそ……!? マジか、やばっ」

「逃げよう!」

 入ったとき同様、転がり込む勢いで廊下へ出る。
 そのとき、地鳴りとともに校舎が揺れ始めた。

 慌てて壁に手をつき、どうにか身体を支える。
 立ち止まっていても揺れ続けているため、平衡(へいこう)感覚が狂っていく。

 そうしながら、ライトを周囲へ振り向けた。
 廊下を照らしても人影はない。

「大丈夫かな、朝陽くんたち……」

「西階段の方向かったんじゃないの? とにかくあたしたちも上ろ!」

 ぐい、と柚に手を引かれ、ふらつきながらも駆け出す。
 ここから近いのは東階段の方だ。

 ぐらぐらと不安定な階段を上りきると、そこで一度足を止めた。
 呼吸を整えているうちに揺れと轟音(ごうおん)がおさまっていく。

 ふと振り返ると、上ってきた階段の途中の部分から下が崩れ去っていた。
 その先では果てしない闇が口を開けている。

(調べきれなかった……)

 もし1階に屋上の鍵があって、それを見落としていたとしたら終わりだ。

 だけど、もう戻れない以上、考えていたって仕方がない。
 2階より上にある可能性を信じて探し続けるしかない。

「どうする? 西側の方行ってみる?」

「うん、できれば合流したい」

「そうね。成瀬にはちゃんと男気(おとこぎ)貫いてもらわないと」

 そういう意図があったわけじゃないけれど、柚も同意見だったらしく安心した。

 北校舎側と南校舎側、どちらの廊下から向かってもよかったのだけれど、何となく南校舎側へ回った。
 その“何となく”が命取りになるとも知らずに────。

 墨汁(ぼくじゅう)の中に沈んでいるみたいな暗闇をライトで裂いて、廊下を歩いていく。

「……!?」

 ふいに白い光が何かを捉えた。
 反射的に足を止めると、柚も同時にそうした。

 ──ぴちゃん……ぴちゃん……

 水音が耳に届いたのは“その姿”を見てからのことだった。
 わたしたちのわずか数メートル先に(たたず)む人影。

 血まみれの化け物が、ゆっくりとこちらに顔を向ける。

 骨が折れているせいで、油のさされていないロボットみたいにぎこちない動きだった。
 それが逆に不気味さを増している。

「……最悪」