ざわ、と胸が騒いだ。
もしかすると、確かにそうかもしれない。
この悪夢を作り出した元凶である白石芳乃が消えたら、自ずとわたしたちも解放されるはずだ。
既に亡くなっているのに“殺す”というのは妙な感じがするけれど、それは紛れ込んでいる“裏切り者”にも同じことが言えるため気に留めなかった。
思えばその柚の言葉は、最初に考えたものの諦めた可能性だった。
化け物を倒すなんて途方もなくとても現実的じゃない、と。
「でも、近づいただけで殺されちゃうんじゃ……?」
不安を隠せないままわたしは言った。
自由自在にワープして、鉈を薙ぎ払うだけで人間の身体をいとも簡単に一刀両断してしまうのだ。
太刀打ちできるビジョンが見えない。
「うん、無理だよ」
意外なことに朝陽くんはそう断言した。
曖昧な言い方はせずにはっきりと。
「何で?」
「物理的に触れられない。……昨日試した」
そういえば昨日、彼が囮を買って出てくれたとき、確かに“試したいことがある”と言っていた。
「試した、って」
「適当な教室に逃げ込んで、ぎりぎりまで引きつけて、机で殴りかかったんだよ。……本当言うと、殺すつもりで」
「えっ」
「いまさっきの小日向さんと同じこと考えてさ。化け物殺せば終わるんじゃないか、って可能性に懸けたんだけど」
「すり抜けて無理だった、ってことね」
化け物の方は鉈で襲いかかってくるという物理攻撃の手段をとっているけれど、こちらが本体に触れられない以上は手出しできないようだ。
そうなると、化け物を倒す、という強硬手段はやっぱり諦めざるを得ない。
「てか、あんたも名前で呼んでいいよ。苗字だと距離感じるし」
朝陽くんに向き直った柚が言う。
「ああ……うん。でも何か“小日向さん”で慣れちゃった」
「えー? 花鈴のことは呼び捨てなのに?」
どき、と心臓が跳ねる。
それは単に小さい頃からの流れや慣れのお陰だろうと思ったけれど、わたしを一瞥した朝陽くんはどこか照れたように笑った。
「花鈴は……特別だから」



