一拍置いて柚が彼の腕を叩いた。離してくれ、ということだろう。
 朝陽くんが彼女を解放する。

「……っは、ごめん。助かったよ、成瀬」

「いや、こっちこそごめん。苦しくなかった?」

「平気」

 顔色は悪いままでも、柚はいくらか落ち着きを取り戻したようだった。

 朝陽くんもきっと冷静ではないけれど、そう装ってくれたお陰でパニックに(おちい)らずに済んだ。

 おさえた声で話しながら、生首から逃れるように急ぎ足で階段を下りていく。

「それより手の冷たさにびっくりしたわ」

「ごめんごめん。……正直、寒くてたまんない」

 彼は苦く笑った。
 やっぱり、朝陽くんも平気ではなかったみたいだ。

 そのとき、ふと何かを思いついたような柚が突然したり顔になって、わたしに向き直る。

「花鈴、握ってみ? 成瀬の手」

「へ……!?」

 あまりに唐突(とうとつ)な言葉につい()頓狂(とんきょう)な声が出る。
 困惑するわたしの手を掴み、ぐい、と引っ張ろうとした柚だったけれど、すぐに離された。

「……って、あんたもか。手冷たっ!」

 血の気の引いたわたしの体温はきっと下がりきっている。
 目眩(めまい)を覚えるほどだった。
 先ほどの光景への衝撃が未だ抜けきらない。

「大丈夫?」

「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしただけ」

 心配そうに首を傾げる朝陽くんに答える。

 ぐるぐる渦巻く感情は落ち着かない。
 先ほどの衝撃より、もっと根本的な恐怖の占める割合の方が大きかった。

 ああしてすぐ近くに化け物の気配が迫ったことで、嫌でも“死”を意識させられた。

 目を背けても、状況は変わらない。
 わたしの背中には、ぴったりと死が張りついているのだ。



 1階へ移動し、昇降口、階段横のお手洗いを調べ終え、先に手間のかかる北校舎側へ向かうことにした。

 あれ以降、化け物の気配はひとまず遠ざかり、怪奇現象も起こっていない。

 開いたのは校長室、応接室、放送室、資料室で、いくつかの鍵を得たわたしたちは、北校舎東側の一番端にある資料室を調べ始めたところだった。

「思ったんだけど」

 ふいに何の脈絡(みゃくらく)もなく柚が口を開く。

「“裏切り者”じゃなくて、白石芳乃本人を殺すんでも終わらせられるんじゃないの?」