威勢(いせい)よく、でも実際には恐怖を押し殺しているような調子で啖呵(たんか)を切る。

 まずい。嫌だ。柚が殺されてしまう。
 頭の中を混乱が駆け巡った。
 だけど、身体が動いてくれない。

 すぐに悲鳴か逃げる足音が聞こえてくるだろう、と覚悟して身を硬くしたものの、あたりは静まり返ったままだ。

 ──ぴちゃん……ぴちゃん……

 滴るようなそんな音が響いているばかり。
 化け物に襲われているような気配は感じられない。

「ゆ、柚。大丈夫……?」

 たまらずそう声をかけた。
 朝陽くんがつけたライトの明かりを頼りに、階段の方へ向かう。

 ここを通ると、いつも突き当たりの窓に自分の姿が反射して脅かされる。
 ここは今朝、夏樹くんと話をしたところだった。

 角を曲がり、階段の方を見やる。
 立ち尽くす柚の後ろ姿を認めた。

 ──ぴちゃん……ぴちゃん……

 それと同時に、天井から垂れてくる黒っぽい雫が照らされる。
 床に血溜まりができているのを見て、降っているのが赤い血だと分かった。

 ──ぴちゃん……

 雫が床に落ちるたび、そんな音とともに血溜まりが少しずつ範囲を広げていく。

「何これ……」

 戸惑いを口にしながら、柚の様子を窺う。
 彼女は天井を見上げたまま怯えたような浅い呼吸を繰り返していた。

「ひっ!」

 その視線を追って、思わず上げかけた悲鳴をどうにかおさえ留める。

 天井には大きな顔の染みがあった。
 苦悶(くもん)に歪められたその顔は、そのまま壁に吸収されたのではないかと思うほどリアルだ。

 わたしたちを見下ろす血走ったような目から、赤い雫が滴り落ちている。

「……趣味悪いなぁ」

 朝陽くんがあえておどけるような調子で言う。
 お陰で柚の金縛りが解けた。

「あ、あーもう……本当びっくりした! 化けもんじゃなくてよかったけどさ」

 柚がそう言った瞬間、ずる、と何かが滑り落ちるような音がした。
 その直後には、べちゃ、という音が続く。

「あ……うそ……」

 突如(とつじょ)として天井から落ちてきたのは生首だった。
 先ほどの血溜まりを跳ねさせ、そこに転がっている。

 苦悶の表情を浮かべた男子生徒の頭部。
 恐れと驚愕と憎しみと、あらゆる感情を凝縮(ぎょうしゅく)したような目が、わたしたちを捉えていた。

 虚ろなのに爛々(らんらん)として見えて、底知れない恐怖が全身を()う。

「……っ!!」

 悲鳴を上げそうになった柚の口を、とっさに動いた朝陽くんの手が覆って塞ぐ。
 叫んだら、今度こそ化け物を呼び寄せることになる。

 わたしはというと、一部始終をまともに見てしまってすっかり放心状態だった。

 声を上げる気力すらなく、がたがたと全身を震わせることしかできない。