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 ベッドに腰かけ、左腕の傷を眺めた。

 残機は1。
 眠らない、という選択肢もないわけではない。

 だけど、日中に寝落ちしてしまうことが一番怖かった。
 “日没前の夢”は夢でありながら現実でもある。
 うっかり殺されたのではたまらない。

 1日や2日くらいなら眠らなくても耐えられるかもしれないけれど、身体の状態は夢の中にも影響する。
 不調を(きた)したり、まともな判断力が鈍ったりするのは避けたかった。



 ──キーンコーンカーンコーン……

 いつの間にか眠りに落ちていたわたしは、重々しいチャイムの音で目を覚ました。

 いつもの流れでスマホのライトをつけ、音を立てずに立ち上がる。
 まだ眠っている面々を起こして回った。

「始まったか」

 高月くんが呟くように言う。
 わたしはつい、黒板に目をやった。

 “飛び降りて死ね”────今夜は絶対に、何がなんでも生き延びなければ。

「さて……誰がどこ行く?」

「俺は花鈴と同じとこ」

 間髪(かんはつ)入れずに朝陽くんが言った。
 驚いて彼を見ると、真剣な眼差しが返ってくる。

「今夜を最後にはさせないから」

 ……心が震えた。嬉しかった。
 わたしを守ろうとしてくれる、彼の決意と優しさが染み渡る。

「あれあれ? やっぱ、ふたりってそういう……?」

 冷やかすように柚が言う。
 その顔には面白がるような笑みが浮かんでいた。

「ちょ────」

「でも、あたしも花鈴についてく」

 慌てて反論しようとするも、最初からとり合うなどなかったらしく、彼女は堂々とそう宣言した。

「おいおい。邪魔してやるなよ、柚」

 夏樹くんまで何を言い出すのだろう。
 何だか暑くなってくる。

「それもそうなんだけどさ、残機1なんてやっぱ危ないじゃん。だから、いざというときはあたしが盾になる」

 それは思いもよらない言葉だった。
 驚いてまじまじと彼女を見る。

「柚、それは……」

「花鈴がなんて言おうともう決めてるから。諦めてあたしたちに守られなって」

 一点の曇りもなく得意気に笑う。
 向日葵みたいに明るくて眩しい笑顔だ。

 つい朝陽くんの方を窺うと、こくりと心強い頷きが返ってきた。
 何度、そうして自信をもらったことだろう。

「……ありがとう」

 しみじみと告げる。
 昨日までなら信じられないような展開だった。

 わたしたちの関係性は、もう修復できないほど粉々に砕け散って、みんなばらばらになってしまうのではないかと怖かった。

(そうならなくて本当によかった……)

 こうして手を取り合って、同じ方向を向いて、歩幅を合わせて歩き出せて。

 協力しよう────。
 もしかしたら、そんなわたしの唯一の主張が響いたのかもしれない。

 何だってよかった。
 目の前の現実は、あたたかいものだったから。