前提が崩れた。
覚えている、知っている、というようなことは何の保証にもならない。
夏樹くんだけじゃなく、誰しもが同じだけ“裏切り者”である可能性を秘めているということだ。
「うわ、もう……そうなってくると、ますます分かんないって」
はっきり言って、何も信じられない。
過去も、いま目の前にある現実も。
どこからどこまで、そして何を疑えばいいのだろう。
真理に近づいたはずなのに、余計に難しくなった。
せっかくみんながまとまって協力し合えそうだったのに、これではまた疑心暗鬼に陥ってしまう。仲間割れしてしまう。
そういう意味でもまた恐ろしかった。
「マジで、誰なんだよ……?」
夏樹くんは怯えたような眼差しを忙しなく行き来させていた。
急速に渦巻いた不安感がわたしたちを飲み込んでいく。
先ほどまでみんなの存在を近くに感じていたのに、いまは彼らとの間に重厚で冷たい壁を画されたような気がしていた。
「“裏切り者”って」
半ば口をつくような形で、気づいたら切り出していた。
だけど、考えは頭の中できちんと形作られている。
「自分がそうだって自覚があるとは限らないよね……?」
悪意を持ってわたしたちを騙そうとしている、とは。
あえて嘘をついて欺き、わたしたちを死へ誘導しようとしているわけではない可能性がある。
白石芳乃はその人に殺され、彼女もまた既にその犯人を呪い殺しているのだ。
それなのに彼女たちが味方同士というのは、不自然と言わざるを得ない。
「それも……盲点だったな」
「協力し合える関係とは思えないし、お互いに手を貸す理由がないと思うんだけど」
そう言うと、柚が難しそうな顔をした。
「つまり?」
「つまり、その“裏切り者”も記憶を書き換えられてて……白石芳乃の呪いに利用されてるのかも」
当初はその“裏切り者”の方が主導権を握っているのだと思っていたけれど、逆だったのかもしれない。
何はともあれ、この結論ならば、違和感や矛盾があるようには感じられない。
これまで図らずも無視していた、あるいは気がつかなかったような綻びも、すべて説明がつくような気がする。
(“裏切り者”は自分が“裏切り者”だって気づいてない可能性がある……)
ということは、自分が既に死んでいるとも知らないわけだ。
もしかしたらわたし自身がそうである可能性も、大いにありうる────。



