「えー……。でもやっぱ信じらんないよ、この中に“裏切り者”がいるなんてさ」

 柚は同じ主張を繰り返したけれど、先ほどとは一転して困り果てたような笑みを口元に浮かべていた。

「だって花鈴は去年から同じクラスで親友でしょ。朔は中学からずっと一緒。成瀬とは……出会ったのは今年だけど、花鈴に色々話聞いてたし」

 どきりと心臓が跳ねた。
 思わぬところから不意打ちで攻撃を食らった気分だ。

「そうなの?」

「えっ!? あ、えっと……覚えてない!」

 朝陽くんに小首を傾げられ、慌てて誤魔化した。
 鳴り響く心臓の音が加速していくのに気づいてしまうと、かぁ、と頬まで熱くなってくる。

 柚はいきなりなんてことを言い出すのだろう。
 それじゃまるで、わたしがずっと朝陽くんのことを気にしていたみたいだ。

「まあ、そうなると怪しいのはやっぱり……乾ってことか」

 高月くんはわたしの動揺を知ってか知らずか、まるごと無視して推測を口にした。
 それは名簿を見た日、わたしも考えたことだ。

「はぁっ!? 俺なわけねーじゃん! 適当なこと言うのやめろよ」

 夏樹くんは全力で否定した。
 疑われたことへの驚きと苛立ちが半々といった様子だ。

「“裏切り者”の目的だって、結局はほかの4人と同じだろ? バレずにやり過ごして生き延びる。俺がそうなら、殺すまでが条件だとか言わねーよ」

 意外にも冷静な反論だった。
 そしてそれは的を()ていると思う。

 “裏切り者”の立場からしたら、仲間から殺されるような展開は避けたいはず。

 そのリスクを負いたくないのだから、見つけ出して殺すことが終わらせる条件なんじゃないか、なんて自分の口から言うことはまずないだろう。

 裏をかいて、という可能性はあるけれど、そこまで追っていたらきりがない。

 ただ、彼のことを去年以前から知っている人は、少なくともこの中にはいない。
 それもまた事実だった。

 そんなことを考えたとき、はっとあることに思い至った。

「ねぇ、思ったんだけど……。“裏切り者”がいつの間にか紛れ込んでたことを考えると、記憶ごと書き換えられてるって可能性はないかな」

 わたしたちの中に紛れ込んでも不都合が生じないように、記憶を改ざんされている可能性。

 思いついてしまうと、逆にいままでどうして気づかなかったのか不思議なほどだ。

「そうだな、確かに。それが自然だ」

「じゃあ、いまある思い出も偽物かもしれないんだ……」

 だとすると、過去の繋がりはあてにならない。

 わたしと朝陽くん、柚と高月くん、それぞれが共通して持っている思い出だって、本当は存在しないものかもしれないのだ。