そのとき、キィ、とふいに(きし)んだドアの開閉音がして、高月くんが顔を覗かせた。

「やっぱりここにいたか」

 いつも通りの平板(へいばん)な口調で言い、こちらへ歩み寄ってくる。

「へー、優等生のあんたがサボり?」

「いまに始まったことじゃないだろ。僕には勉強よりも命の方が大事だ」

 柚と交わすやりとりまで普段通りのものだった。
 今朝のような一触即発(いっしょくそくはつ)の雰囲気はなくなっていて、酸素の薄さも居心地の悪さも感じられない。

 やっぱり、余計な心配はいらなかった。
 ほっとしながら密かに小さく微笑む。

「どこ行ってたんだ?」

「図書室。また色々調べてきた」

 そう言ってスマホを差し出してくる。
 画面には新聞記事の写真が映し出されていた。

「写真撮っていいんだっけ」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。早く見ろ」

 茶々を入れる柚に高月くんは律儀(りちぎ)に返す。
 それぞれ記事に目を落とし、黙って文字を追った。

 ────白石芳乃が亡くなった年、タイミングを同じくして5人の生徒が死亡していた。

 それぞれ死因は心臓麻痺(まひ)
 ネット上では芳乃の呪いともささやかれていた。

 5人が亡くなる前、それぞれの腕に切り傷があったことが確認されているが、遺体にそのような痕跡(こんせき)はなかったようだ。

 また、彼ら彼女らと芳乃との関係は不明とある。けれど、だいたい想像はつく。
 芳乃は恐らくいじめに遭っていた。

 亡くなった5人はその加害者で、もしかするとその中の誰か、あるいは全員が芳乃殺害に関わった犯人なのかもしれない。

 いや、紛れ込んでいる“裏切り者”がひとりなら、手を下したのはあくまでその中の誰か……?

 いずれにしても、5人はいまのわたしたちと同じ状況にあったにちがいない。
 腕の切り傷や不自然な心臓麻痺────呪いはそこから始まっていた。

(わたしも残機がなくなったら……)

 きっと、心臓麻痺で死ぬんだ。

 ぞっとした。
 その存在感を知らしめるように、どくん、と大きく拍動(はくどう)する。

「や、やばいじゃん……。早く殺して終わらせないと!」

 同じことを考えて怯んだらしい柚が焦りを滲ませた。
 飛び出した物騒(ぶっそう)な単語に高月くんが訝しげな顔をする。

「殺すって何の話だ?」

「ああ、それが────」

 朝陽くんが代表して説明した。
 “裏切り者”を見つけ出すだけでなく、殺して初めて悪夢を終わらせられるのだという結論、それを裏づけるに足るメモの写真なんかについて。

「……なるほどな、確かに納得できる。乾にしては()えてるな」

「だろ」

 褒められているのか(けな)されているのか分からないけれど、夏樹くんは前者だと解釈したのか誇らしげだった。

「……でも、本当にこの中に“裏切り者”なんているわけ?」