「とりあえず僕と成瀬でデスクを調べるから、日南は周りの棚とか書庫(しょこ)の方頼む」

「うん、分かった」

「鍵優先?」

「……そうだな、仕方ない」

 見落としても、メモは明日見つかるかもしれない。
 だけど、鍵はそうもいかない。
 一旦、割り切るしかないだろう。

 それぞれが割り振られた位置へ散った。
 わたしは廊下側の壁際へ寄ると棚を開け、中を照らして確かめていく。

 本やファイル、書類を無視していいのなら、こちらは調べる箇所をかなり絞れそうだ。
 早く終わらせて、デスクの方を手伝いにいかないと。

 そんなことを考えたときだった。

 ──ズ……

 一瞬だけ、重たげな音が聞こえた。
 何かを、いや、折れてしまった足を引きずるような化け物の足音。

 気のせいだろうか。
 瞬間的で、そしてあまりに微かで、確信が持てない。

 ──ぴちゃ……

 ──ズズ……

「!」

 今度は確かに聞こえた。
 扉を閉めた室内にいてこれほどはっきり拾えたということは、もうかなり近い位置にいる。

 慌ててライトを消した。

「ふ、ふたりとも……」

 叫びたいのをこらえ、声を潜めたまま振り返る。
 顔を上げた彼らは手を止めた。

「来てる……!」

 そんな自分の言葉で、思い出したかのように恐怖心が湧き上がる。
 ぞわぞわと肌が粟立(あわだ)ち、身体が芯から強張った。

「化け物か」

「うん、もう……すぐそこにいるかも」

 ふたりがライトを消すと、あたりは完全な闇に包まれた。
 何もかもを吸収してしまったかのような闇。何も見えない。

 ──ぴちゃ……ぴちゃ……

 水音しか聞こえない。
 もしかしたら、壁を挟んだ向こう側に立っているのかもしれない。

(どうしよう)

 動けなくなった。呼吸さえままならない。

 いますぐ逃げ出したい。
 ふたりの方へ行きたい。

 だけど、一歩でも動いたらその音でここにいることに気づかれてしまうかもしれない。
 もしくはとっくに気づいていて、いまはただ恐怖で(もてあそ)び、楽しんでいるのかも。

 ──ぴちゃん……

 心臓が暴れていた。
 その音さえ聞こえてしまうんじゃないかと不安でたまらない。

 扉を開けられたらどうしよう。
 このまま息を潜めてやり過ごせるだろうか。

 いや、無理だ。化け物にはぜんぶ見えている。
 ここへ入ってきたら終わりだ。

 のしかかってくるあまりのプレッシャーに泣きたくなった。

(怖い……。もうやだ……っ)

 ふたりとも、ちゃんと近くにいるよね……?
 そう心配になってしまうほど、暗闇の中にはわたしと化け物以外の気配を感じられない。

 ──ガン……ッ