「…………」

 しん、と静まり返っている。
 化け物の音も、柚や夏樹くんが争っているような声も聞こえてこない。

「……いまのとこ、平和だな」

 朝陽くんがささやく。そうみたいだ。
 ふたりが既にどこかでこと切れている可能性は(いな)めないとはいえ。

「次、北側行こう。厄介な職員室がある」

 そう言った高月くんは素早く歩いていく。

 身をもって体験したような言い方だった。
 さっさと終わらせておきたいのだろう。開けば、の話だけれど。

 わたし自身はまだ探しに入ったことはないものの、確かに想像が及ぶ。

 2日目の夜に足を踏み入れたとき、雑然(ざつぜん)とした印象を受けた。
 とにかくものが多いのだ。
 その分、鍵の隠し場所も増えて探すのに手間がかかる。

 職員室へ向かう前に順番に見ていった。
 北校舎西側の一番端は事務室だ。

 ──ガタッ

 ドアが揺れる。でも、開かない。

 取っ手に手をかけていた高月くんは、特に落胆することもなく隣へ移動する。
 わたしたちもついて歩いた。

(次は校長室……)

 今度も高月くんが取っ手を掴んだ。
 そのまま(ひね)って押し込むように力を込めると、キィ、と軋んだ音を立てながらドアが開く。

「開いた」

 思わず呟き、彼に続いて足を踏み入れる。

 ふか、と靴裏が沈み込んで、床全面にカーペットが敷かれていることに気がついた。
 そっと静かにドアを閉め、室内を照らす。

 正面に木製のデスクがあり、革製の椅子がおさまっている。
 突き当たりの壁は大きな窓だ。

 向かって左側の壁に沿ってガラス張りの棚とサイドボードが置かれている。
 何かのトロフィーや表彰盾(ひょうしょうたて)が並んでいた。

「……校長室、初めて入った」

「意外と狭いんだね。ソファーとかテーブルとかもない」

 部屋の中央あたりに置かれているイメージだったけれど、それらは見当たらず広々としている。

 壁の高い位置に歴代校長の写真が飾られているのは、想像通りだったけれど。

「隣に応接室があるからな」

「へぇ、そうだったんだ。別れてるんだね」

 そういえば、そんな室名札があったような気もする。
 普段はなかなか通らない場所だから意識していなかった。

「お陰で探す手間も2倍だ」

「そう変わんないだろ。応接室なんてもの少ないし」

 3人でいるお陰か恐怖心が抑えられ、軽口を叩き合う余裕が生まれていた。
 これほど心にゆとりを持ってこの時間を過ごすのは、初めてな気がする。