「……正直、嬉しかったよ。今朝も」

 納得のいっていない表情の彼を見つつ、そう告げる。

 わたしを思って、わたしのために怒ってくれた。

 自分でも無意識のうちに(ないがし)ろにして、端へ追いやっていた感情や気持ちを、真っ先に見つけて守ろうとしてくれた。

「救われた気がした」

 なぜだか、喉の奥が締めつけられる。
 (ふた)をしていた本心に向き合おうとすると、たまに泣きそうになる。

「花鈴……」

「ありがとね、朝陽くん。でも本当に十分だから……殺せなんて言わないで」

 彼は何か言おうと息を吸い込んで、少ししてから吐き出した。開きかけた唇を閉じる。

「……分かった」

 眉を下げ、目を伏せると一応は頷いてくれた。
 本当に納得してくれたのかは分からない。
 してくれていたとして、どの程度かも分からない。

 でも、これでよかった。

 提案を受け入れて朝陽くんを殺したら、残機数はわたしが3、彼が2になって、結局は入れ替わるだけ。

 一時的な、そして(むな)しくて取るに足らない安心感のためだけに、一線を越えたくはない。
 彼を殺したくなんてない。

 この考え方が正しいのかどうかは分からないけれど、曲げたくなかった。
 だからこそ前を向いていられる。



     ◇



 ──キーンコーンカーンコーン……

 音割れしたチャイムが、不快感を伴いながら重たく鼓膜(こまく)を揺らしてくる。
 ふと目を開け、身体を起こした。

 真っ暗闇の中に、白い光がふたつ。
 わたしも急いでライトをつける。

 光は柚と夏樹くんのスマホが発しているものだった。
 夏樹くんは昨晩のように、何も言わないまますぐさま教室から出ていってしまう。

 それを見て焦った。
 のんびりしていると、鍵を探すどころじゃなく殺されるかもしれない。

 慌てて、だけど静かに立ち上がると、朝陽くんと高月くんを起こしに向かう。

「柚……」

 彼らが目を覚ましたのを確かめると、ほとんどひとりでにそう呼びかけていた。

 黒板のあたりに立つ彼女を軽く照らす。
 険しい表情で固く口を結んでいる。

「……悪いけど、今日はほっといて」

 こちらに目を向けないまま言った。
 その声には確かな怒りが、いや、それよりもっと深い憎しみが宿っているように感じられる。

 夏樹くんと改めて顔を合わせたことで、その感情がぶり返したのかもしれない。

「あいつ……絶対、殺す」