そのことを思い出したとき、ひたひたと恐怖心が忍び寄ってきた。
 するりと心の隙間に入り込み、思考を(もや)で覆っていく。

(どうしよう……)

 今夜もまた、夏樹くんに殺されてしまったら。
 今朝の様子からして、その可能性は大いにありうるものだと思えた。

 残機を5以上貯められるかどうかは知らない。
 でも、彼が“殺られる前に殺る”という考えなら、残機云々(うんぬん)によらず全員に殺意を向けてくる。

 わたしが死ねるのはあと2回だけ。
 もう、たったの2回。

 夏樹くんに殺されなくても、そもそも化け物の餌食(えじき)になる可能性だって十二分にある。

「……っ」

 息苦しくなってきた。
 震えが止まらない。
 怖くて、不安で、どうしようもない。

「────花鈴」

 ふいに朝陽くんに呼ばれ、ぱちん、と泡が弾けるように恐怖の呪縛(じゅばく)が解けた。
 はっとして見上げる。

「今夜、夢で俺のこと殺していいよ」

「え……?」

 何を言われたのか、理解するまでに時間がかかった。

 すぐには受け止められない言葉と、彼の清々しいほどに迷いのない眼差しがなおさら混乱を招く。

「なに言ってるの……!?」

「俺の残機あげるから」

 もともとそう言おうと決めていたのか、その答えは間を置くことなく当然のように返ってきた。
 だけどわたしは、そう“当然のように”は受け入れられない。

「いい……。いらない」

 ふるふると半ばおののくように首を左右に振った。
 朝陽くんは不思議そうに眉を寄せる。

「何で?」

「わたしたちは協力し合うべきなんだよ! なのに、そんな殺し合いとか」

「これも協力じゃないの? 残機分け合うのって」

「それは……」

「花鈴に死んで欲しくないから言ってんだよ、俺は。……お願いだから守らせてよ」

 とっさに言葉が出てこなかった。
 朝陽くんの優しさを否定したくない。できない。

 きゅ、と唇を噛み締めたまま、何も言えずにその瞳を見返す。

 わたしが間違っているのだろうか。
 残機を分け合うことは確かに“協力”と呼べるかもしれない。
 その残忍な手段に惑わされているだけで、その考えが実際には正しいのだろうか。

(……ううん、やっぱりだめだ)

 傾きかけた考えを打ち消す。
 たとえ夢の中でだって、本当の死じゃなくたって、それだけは越えちゃいけない一線のはずだ。

「ごめん……。気持ちだけ受け取るね」

「なんで────」

「本当にありがとう」

 彼が間違っているとは思えないし、そこまで言ってくれたのも嬉しい。

 やっぱり朝陽くんは優しくて、自分より人のことを先に考えて想ってくれている。
 それを改めて知れただけで十分だ。