キスしてよ、罠でもいいから



「ほら、ついた」


「あ、はい!」


運良く密室から出られたから、真っ赤な顔は見られなかったみたい。

エレベーターのドアから1歩踏み出すとそこには、高級そうな真っ赤なカーペットが廊下の端まで敷かれていた。


しかもその下は大理石、という一般人の私には似合わなすぎる詰め合わせ。

こ、これ歩いていいのかな。急に警察が来たりして逮捕されないよね。
なんだっけ、詐欺のマルチ商法みたいな……?


不法侵入だ、とか言われてもお金払えないよ。


そんな私をよそにまたカードキーを当てた朔夜くん。
ピッという電子音がして扉が開く。


「そんなにビクビクしなくていーよ。入っといで」


ほら、と手を出されて一瞬迷う。

本当にこの手を取って部屋に入ってもいいのか。
目の前にいるのは極悪人、と呼ばれている人なのに。


でも、さっきまで歩いてきたなかでは極悪人なんて見えなかった。
むしろあの男の子や街の人には感謝されていたし。