キスしてよ、罠でもいいから



「いーよ、いい子にしてたらね」


「っ、ほんと!?やったぁ、俺頑張るから!」



見ててね!と言って去っていった男の子。

ブンブン、と私たちの姿が見えなくなるまで手を振り続けていて可愛いなぁ、と思うと同時に朔夜くんの意外すぎる1面にも驚いた。


なんとなくだけどガキ、とか言って子供とか蹴飛ばしそうなのに……。

相変わらず真っ黒な瞳の中からはなにも見えない。


「なーに、みほチャン」


「な、なにもないです、」


そんな会話をしたのもつかの間、今度は年配の女性が声をかけてくる。


「あらぁ、朔夜くんじゃない。この前はありがとね。娘を騙してたやつらがいなくなって、やっと大学に行き始めたのよ」

「いえ、気にしないでください」


こんな風にだれかとすれ違うたび、声をかけられて朔夜くんにお礼が言われていく。



……朔夜くん、実は私たちが思っているような人じゃないのかも。

さっきだって詳しいことは分からないけど、男の子からすごく慕われていたみたいだったし。

そこに脅している、とかいう雰囲気はなかったもん。


1回くらい、きちんと話し合えば生徒会とDeftも仲良くできるのでは……?



「ついたよ、ここ」


「っ、え?」


下を向いて1人で考え込んでいたから、目の前の大きすぎる建物に気づかなかった。