愛華が笑顔で椿の横を歩いていると、突然椿が愛華に顔を寄せてきた。


 あまりにドキドキしすぎて、「ひっ」と声が出そうになったところをすんでのところで我慢した。


 椿は愛華にだけ聞こえるように声を潜めた。


「あれから危ない目に遭ってない?」


「え?」


 あ、駅のホームでのことかな?と愛華は当たりを付ける。


 楽譜やロッカーをぐちゃぐちゃにされたりはあったが、危ない目、という程のことではない。


「あ、うん、大丈夫だよ」


「そっか!よかった」


 愛華の返答に椿は安堵したように離れてしまった。


(ど、ドキドキしたー!何かと思った!ずっと心配してくれてるのかな?本当に優しい人…!)


 椿がずっと愛華を気に掛けていてくれているらしいことに、心が温かくなる。



 他愛もない話をしていたら、あっという間にA組の教室まで着いてしまって、愛華は名残惜しくもお礼を伝え別れようとした。すると愛華が口を開くより先に、椿が言葉を紡ぐ。


「そうだ、今日一緒に飯食う?あ、大丈夫、ちゃんと女子もいるから」


 この前昼休みにD組を覗いた時のような男子グループだったら、少し気まずいかもと思っていた愛華は、付け足された椿の言葉にそれなら是非お邪魔したいと、食い気味に返事をした。